劇場公開日 2021年11月6日

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「社会運動としての映画」記憶の戦争 taroさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0社会運動としての映画

2021年11月17日
PCから投稿

ベトナム戦争時の韓国軍による住民虐殺の犠牲者が、その被害の様相を語る映画である。

問題提起の映画ではない。退役軍人の男性も時々登場し、自分たちの従軍は、その後の韓国の経済発展に繋がったと誇らかに語っている。しかし、ベトナム人犠牲者と韓国の元軍人の視点が論争的に提示されることはない。住民虐殺は韓国政府に責任があるのか、一部の「不良」兵士の暴走なのかという問題も掘り下げられるわけでもない。何より、韓国軍による住民虐殺の歴史は、韓国の歴史の中でどの様な意義を持つのか?という、韓国社会にとって重要なテーマが不在である。

しかし、この映画は、ベトナム人被害者が韓国人に向かって被害を語るという〈現実〉を生み出した。この映画には、新しい〈現実〉が生まれる瞬間の瑞々しさがあった。その〈現実〉は、韓国人製作者達の真摯な聞く姿勢がベトナム人被害者の戸惑いや恐怖を取り払ったからこそ生まれたのであろと感じられた。啓発的なドキュメンタリー映画ではなく、新しい〈現実〉を作る社会運動的な性格を持った映画だと思う。

被害者に寄り添う韓国人監督の姿は、昔見た「ナヌムの家」を思い出させた。日本国内の慰安婦問題のように無惨な道を辿らないことを、勝手ながら願う。

taro