「年上妻と婿の視点もおもしろい」スープとイデオロギー トコマトマトさんの映画レビュー(感想・評価)
年上妻と婿の視点もおもしろい
ヤン・ヨンヒ監督、十数年年前の「ディア・ピョンヤン」が話題になったころから関心を持ってきた。
本作の中でも相変わらず、おきれいな方で、時々その点にドキドキしながら見てしまった。
それはともかく。
昨年の公開時に、見たい――と思いながら、そのままにしていたのだが、年明けのNHKEテレ「ETV特集」で、取り上げられていたのを見て、「見なきゃいけない」と慌てて、上映館を探したら、たまたま再映していたので駆け付けた。
平日午前。11時開始のところ10時半過ぎに行ったら、映画館は結構な人がいて、「えーっ入れるかな。テレビの影響は大きいな」と慌てたのだが、待っていたほとんどの人は別の作品目当てであり、本作の客入りは20人ほどだったか。
ETV特集で、ヤン監督は北と日本と在日とをめぐる関係についてのやり場のない気持ちを訴えていた。この映画もそんなトーンに満ちているのか、と思ったが意外な展開があった。
彼女が、12歳年下の男と結婚することになり、大阪・猪飼野にひとり暮らすオモニに紹介する場面…そこが面白い。
ヤン監督、20代のころに一度在日の人と結婚していたことがあるそうで(本作では触れていない)、その後ずっと一人だったのかは分からないが、少なくとも2度目の結婚相手は亡くなったアボジが反対していた日本人、しかもずいぶんと年下の男であった。
オモニはその娘よりずっと若い婿に、鶏まるごと一羽を煮る参鶏湯を作ってもてなす…。
一方の婿は、オモニがいないときに、彼女宛に来た「不愉快なダイレクトメール」についてクレームの電話をかける。彼は、そのDMについてクレームをつけることが彼女に代わってやる英雄的行為でもあるように、スクリーンに映り出される。
それぞれが。それぞれの立場でひとつになろうとする――カメラはそれを追う。
その後は、1948年にヤン監督の両親の出身地・済州島であった虐殺事件70周年記念式典に、臨時パスポートで参加が許されたオモニとともにヤン監督夫妻が参列する姿などを描く…。
ヤン監督の過去作の延長にある映画であるのは間違いないが、若い婿とオモニの関係を「スープ作り」を通じて描いたところが秀逸。
ヤン監督は阿久悠に取材し、1960-70年代の日本の歌謡曲について取材した作品を撮るという話を聞いたことがあった。しかし、今はソウルを拠点としているよう。日本での新作を期待したいのだが…。