「スープとイデオロギーを見て感じたこと」スープとイデオロギー コショワイさんの映画レビュー(感想・評価)
スープとイデオロギーを見て感じたこと
1 監督ヤンヨンヒが母を、家族を見つめ、そして国が引き起こしたことを描く。
2 本作は、これまでのヤンヨンヒの作品と同様、家族のことが描かれる。中心は母。80歳台の母の姿を数年間にわたり記録する。母と娘とその連れ合いの団欒など何気ない日常を映し出す。
3 映画の冒頭、母が娘時代に済州島で大変な場面に遭遇したことが語られる。その内容は 、中盤で明らかになるが、当時の体験が彼女の国家感を形作る要因となり、そしてそのことで、子供たちの人生を大きく左右させてしまうこととなる。母は、息子たちを帰国事業に参加させていた。母は、息子たちに理不尽な生き方を強いたことを悔やむ。
4 その後の母は、認知症となり、記憶が抜けていく。済州島で見聞したことや当時婚約者に死なれたことさえも忘れてしまう。それでも母には、かつて家族が揃っていた昔の記憶だけは残っており、父や息子たちの名を呼ぶ。もはや戻ることも実現することもない幻の世界の中で、母は生きている。
5 本作でヤンヨンヒは、家族の日常と合わせ、堪えがたい家族の歴史さえも穏やかに直視した。作り手や登場人物の感情が剥き出しになることはなく、冷徹な画面作りにより、家族の悲しみが表面的ではなく深く伝わってきた。そして、ヤンヨンヒと連れ合いの母に対する接し方に温かみを感じた。ラストにでてきた北鮮にいる姪からの手紙に、監督はどのような言葉で応えるのであろうか?その答えは次作に繋がるのか知りたいと思う。
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