劇場公開日 2022年6月11日

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「イデオロギーをめぐるスープの味」スープとイデオロギー critique_0102さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5イデオロギーをめぐるスープの味

2022年7月7日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

韓国にとっては歴史のタブーであった済州島四・三事件。
日本にとっては歴史の中にさえなかったと思ってる人々がほとんど。

現在は大韓民国であるその島。しかし、そこの元島民は、その国ではなく彼の島に帰属を求めた。
そして、彼らが帰属を願った彼の島の人間は、その帰属のあり方には全く無頓着であり、さらに言えば、排他的にさえ振る舞う、そんな島国だった。

양영희は오모니をストーリーテラーとして、このドキュメンタリーとしてのナラティブを進めている。
参鶏湯とまではいかないまでも丁寧に作られたスープの味は、오모니、そして아보지、二人が生きてきた時代とともに作り出されてきたのだろう。もしかしたら、そこには彼女の오빠もまたいたのだろう。

時が進むにつれ、時代の記憶が、今という現実が、오모니から剥ぎ取られていくのだが、양영희が語るように、このような過去を忘れることのほうが幸せなのかもしれないという願いと、しかしそうあっては、오모니の生から生きてきたその「恨」をみぬふりをしてしまうという負い目とが、118分の中で徐々に徐々に葛藤を生むことになる。

北の首領の肖像画が降ろされ、애국가を제주도で口にするとき、
複数の「国家」的アイデンティを経由し唯一の「民族」的アイデンティへと回帰する오모니の瞬間を、我々は見たのということになるのだろうか。

スープには、時間とそれを作りあう人々が混じり合っている。濃厚な混濁。それを介して言葉を交わし合う。しかし、自己の生存を、一見混じりけのないような政治イデオロギーにかけようとするならば、私たちは「スープの味」を知らないままでいるだろう。

critique_0102