劇場公開日 2022年1月14日

  • 予告編を見る

「もやもやを残す作品」スティルウォーター F.C.くまさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0もやもやを残す作品

2024年6月1日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

知的

娘が殺人の冤罪で服役中。主人公の父親にとって我慢ならない状況だ。真犯人の証拠を探しているうちに、娘にも非があったことを知るが、事件は再審となり無実が証明された。

アメリカという国をストーリーに組み込んでいる。
やましいことがある。決して正義ではない。それでも正しいようなことをして家に帰ってきた。

もやもやしているのが、現代のリアリティ。勧善懲悪や完全なハッピーエンドには懐疑的になってしまう。本当に幸せなのかと。
ネットワークの充実、通信機器の発達によって、世界中のある程度のことを割と簡単に知ることができるようになった。そんなグローバル化によって幸せだと信じることがしにくくなっている。こちらでは幸せそうな人がいる一方で、あちらにはそうではない人がいる。それは以前も考えればわかることだったけれど、現代ほどの現実感は感じられなかった。

終始無表情な主人公が最も感情を表すのは、フランスの居候先の子供と別れるシーンだ。
子供の小さな背中を太い両腕が寂しそうに抱きしめる場面は、作品中最も感情的に描かれる。
娘の無実が証明されて、オクラホマに戻ったシーンは、父娘ともに嬉しそうではない。州によるセレブレーションのシーンなのに表情は明るくなく、気まずそうだ。

主人公はフランスのマルセイユで居候先で暮らしている場面が一番幸福だった。この幸せを失ったのは、自分の行動だし、元は娘が関係した事件のことがある。さらに娘がフランスに留学したのは、主人公が良い父親と距離を取りたかったからだ。原因と結果、因果応報。

主人公は目的を果たしたわけで、ハッピーエンドな展開であるはずだ。にもかかわらず、もやもやを残すこの作品にリアリティが感じられる。ラストのポーチで話す二人の表情が現代にとってふさわしい。

今後、映画に限らずストーリーテリングは、現実感のあるハッピーエンドを語れるのだろうか。

F.C.くま