「嘘つくことで出会う真実」ディア・エヴァン・ハンセン ゆっこさんの映画レビュー(感想・評価)
嘘つくことで出会う真実
エヴァンがしたことは間違っていることは大前提だけど、嘘をつくことでいろんな人が結果として救われたと思う
エヴァンの嘘をみんなが信じてしまったのは、あんな文をコナーが書くわけないと言えるほど彼を知る者が誰もいなかったから
彼が本当に孤独だったから
そしてコナーの言葉として、エヴァンが言った言葉はエヴァンの本当の気持ちだったから
彼女がとても大切で愛してること
自分が本当に誰にも見てもらえない孤独の底にいること
それでも独りじゃないと信じたいこと
エヴァンのコナーとして語る言葉は切実なんだよ
どうしてもどうしても欲しくて仕方のなかったこと
"自分が落ちてしまったとき誰かの助けがほしかった"
"家族にこんなにも愛され、本当は愛していた事実"
全部エヴァンがどうしても手にしたいのに返ってこないいろんな人への想いで、"理想の本当のコナー"が創られていく、でもそれは本当はなりたい自分の幻影なの
コナーのための募金とかも、結局みんな自分のためだよ
自死したという悲しい結末を迎えた人に自分を重ねて、自分を自分に似た人を助けてほしい、助けたいと思っている、ある意味そこに本当のコナーはどこにもいない
でもエヴァンは嘘を介すことでいろんな人の本当を知る
自身の孤独に埋もれて自分のことしか見えない時には気づかなかったもの
理想の女の子は家族の歪みの中で一人苦しんでたこと
"家族だから"って理由だけでいなくなった人が良い人間だったと悲しめたりなんかしない、傷をつけられた過去が消えるわけでもない、でもそんな自分が間違ってるなんて思いたくないのに苦しいこと
キラキラ人の前に立つ女の子が誰にも言えない孤独を抱えてて薬を飲みながら自分を保ってること
「隠すのは上手くても苦しくないわけじゃない」
仕事にかまけてエヴァンの孤独に気づかない母が離婚してから必死で自分を守ろうとしてくれてたこと
それによって余裕がなく母もまた必死に生きてたこと
「今大きなことでもいつかちっぽけに感じるまでずっとそばにいる。今の出来事もいつか過去になる」
エヴァンが初めの時、誰ともコミュニケーション取れなかったのは成功したことがないからなんだよ
だから完璧なシチュエーションを求める、一つの間違いのない対応をしなきゃ気持ち悪がられるから
そのプレッシャーで失敗して嘲笑われる、の繰り返しでずっと自分の気持ちすら言えなかった
でも、嘘を介することでコナーの言葉としてエヴァンは自分の本当の気持ちが口にできるようになるんだよね
その本当の言葉によって人の気持ちを動かす、好きな人にも好きになってもらえる
結果取り返しのつかないことになったけど、それをしたからエヴァンはみんなの本当の言葉を知れたし、誰しも完璧でないことを知ったし、コナーもまた自分と似た孤独を持ってる人間であることを知った
そこから初めて本当のコナーを知ろうとしてその行為が最終的に本当のコナーを見つけることができて小さな救いになる
そして誰も知らないコナーの心の言葉は、どこかエヴァンの嘘の本音に似てたんだよ…
全てを知ったエヴァンはもう、自分宛てに理想の偶像を要求したりしない
今日も僕は僕でしかない、だから大丈夫
それを知れることは強さだし、それを知っていればきっと大丈夫なんだ
いろいろな人が歪だったけど、完璧な人間はいないし、歪なままを受け入れながら生きていい
すごく優しく背中を押された気持ちになった