「優しさから吐いた嘘ではなく、弱さから吐いた嘘。」ディア・エヴァン・ハンセン アルさんの映画レビュー(感想・評価)
優しさから吐いた嘘ではなく、弱さから吐いた嘘。
嘘から始まる本作は、全編を通してその孤独と弱さを受け入れてくれる。弱くても良い、決して一人ではない。
だが、この嘘は"個人的には"『決して吐いてはいけなかった嘘』に括られる。孤独の寂しさ、人に対する不安、誰しもが抱えているであろう心の弱さ。状況を踏まえて、弱さと病を理由に逃げたくなる気持ちもわかるが、コナーの死が絡む事でどうにも共感しにくい。
自身も現在治療中なので、最初は「その不安な気持ち分かる。エヴァンに共感、、、」と思いきや、ストーリーが進むにつれてどんどん共感が出来ず。。。
当初は心の内なる声を歌に乗せて鑑賞者に伝えているのかと思ったが、歌唱シーンに統一性は無く、どうにもわかりにくい。作中のエヴァンはステージで歌っているシーンなのか、ミュージカルとして魅せているシーンなのか。ミュージカル映画の難しさを考えさせられてしまった。
最近ミュージカル映画や作中の楽曲は、つい比較してしまうのだが、
【グレイテスト・ショーマン】の様に、
台詞を歌にきちんと乗せて、場面場面で楽曲の魅せ場をしっかりと作って楽しませるのか、
【イン・ザ・ハイツ】の様に、
歌いながらの台詞と、楽曲でストーリーを進めつつ区切りを付け、要所で盛り上げて魅せるのか、
【竜とそばかすの姫】の様に、
歌をメインとして立てて、鑑賞者にしっかりと楽曲を聴かせるのか、、、
【ディア・エヴァン・ハンセン】は、
どっちにもつかず歌が台詞としてシーンに全て埋もれてしまった印象。魅せ場は少なかった。唯一、エヴァンとコナーのシーンは明るく楽しく、とても良かった。
映画はその場の風景・話の背景が明確に見えてしまう(見せている)分、ミュージカルとは違って冷静に判断出来てしまうのが裏目に出たか。展開や辻褄をツッコミたくなってしまう場面も多々あり残念だった。
余りあるベン・プラットの演技力と歌唱力の素晴らしさ、楽曲の素晴らしさは特筆もの。脇を固めるキャストもエイミー・アダムス以外は初見の俳優さん達ばかりだったが、つい聴き入ってしまう歌の上手さはさすが。チョボウスキー監督の「皆、一人ではない」というメッセージ、上手く伝わると良いなぁ。