「マスクが涙でグチャグチャ」ディア・エヴァン・ハンセン ミーノさんの映画レビュー(感想・評価)
マスクが涙でグチャグチャ
「もし若い頃に戻れるなら、いくらまで払えるか?」など、考えたところでこれ以上ないくらい役に立たないことを考えてみたりするが(映画見過ぎ)、学生時代は輝きしかなかったかと言うとそうでもなく、あの時はあの時なりに狭い世界の中で毎日苦悶していたのを思い出した。
当時は自分自身のことでいっぱいで、教室の片隅のあまり付き合いのないクラスメイト一人ひとりに思いを馳せたりしないけど、教室にいた全員がそれぞれなりに、色んな思いを抱えつつ、席に座っていたのだろうな。
アメリカの学園ものを見ていると、プロムとか学食とか、内気な性格だとかなりしんどそうだなーと思っていたが、そういう集団で目立たない存在の自分、もしくは優等生でも本当の自分を出せない自分、またはコナーのように受け入れてもらえない自分に悩む人はいる。
いじめられている訳ではないけど友達がいなくて気にかけてくれる人もいなくて自分の存在って何だろうと孤独に苛まれているエヴァン。唯一の家族の母親は看護師の仕事で忙しく、腕のギプスにいたずら描きしてくれる友達は1人もいないことを知らない。また新学期が始まり、チアリーダー達は派手に踊り、みんな再会を喜んでいるが、セラピストに自分宛にポジティブな手紙を書くよう課されたその手紙の内容が既に孤独で悲しい。
学校でプリントしたその手紙を、同じく友達の少なそうな気性の荒い同級生コナーに盗られる。その直前にギプスに自分の名前を書いたこともあり、コナーが自殺した後に、遺族である両親とエヴァンが密かに想っている妹から息子の唯一の親友だったのだと思われる。喜んでいる両親を前に真実が言えず、両親が喜ぶような思い出(それは自分自身の理想の姿…悲しい)を作って語る。
1年生の時にコナーと課題を一緒にやった優等生の女子生徒アラナが、自殺を悲しみコナープロジェクトを立ち上げ、エヴァンに協力を頼む。最初は拒否したものの結局やることになり、ステージでしたスピーチがSNSで拡散、孤独な人たちからものすごい数の支持を得て、行ってもいないリンゴ園の再開のチャリティーに結びつく。兄と折り合いが悪く死を素直に悲しめない憧れの妹にも「お兄さんは言葉にできなかっただけで君を思っていたよ」と(実は自分の本心)デタラメを言うが、死人に口なし。コナーの死をきっかけにして2人は付き合うようになるのだった。
エヴァンの大学進学のための学費がないことを知った妹は両親に話し、エヴァンの母親も家に招いてコナーのためだった学資を彼に提供すると申し出る。気を悪くして怒る母親とエヴァンはぶつかる。コナーの一家に自分の理想の家庭を重ねていたのだった。
一方コナープロジェクトは行き詰まり、優等生アラナはエヴァンに事実の矛盾をついて、本当に親友だったのか?と詰め寄る。窮地に立たされたエヴァンは証明のため、コナーの両親が持っているエヴァン宛の手紙を見せる。それをついプロジェクト完遂のためサイトに載せてしまい、逆にコナーの家族はリッチなのに募金を集めているのかと、SNSで激しい攻撃に合う。
悪いのは自分なのに、と、エヴァンはコナーの家族に真実を告げ、妹との関係も終わってしまう。木に登って落ちて骨折したのはコナーと行ったリンゴ園でないだけでなく、孤独で一人木に登り、そこで自ら落ちたのだった。何もかも失ったエヴァンは母親にも真実を打ち明けて、母親の思いも知る。そしてエヴァンはコナーについて、一から知ろうと努め、ついに1つの動画を手に入れる。
高校を卒業し、コナープロジェクトで再開したリンゴ園で妹と再会する。そこで、コナーの両親が自分のことを2人目の息子と思ってくれていることも知る。大学に行くにはまだ学費がないけど、今なら何とか前向きな手紙を自分宛に書けそうだ。
どのシーンも素晴らしかったが、特にコナーの両親に親しかった2人の関係をねつ造して生き生きと語るシーン、1人で森に行き高い木に登り手を離して落ちるシーンなど、彼の気持ちを考えると涙が止まらなかった。
エンドロールの途中で追い討ちをかけるように「孤独で助けが必要なら一人で悩まず何番に連絡してください」というメッセージ。その直後に「電通」という字を見て冷めるが。
エイミー・アダムスが贔屓目に見ても以前の1.4倍くらいの体型になっていてショックだったけど、役作り、ということにさせてもらいます。