「今回も単純に見えて実は複雑にからみあった誤解や事実を、湯川が解明していく展開が見事で見ごたえありました。」沈黙のパレード 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
今回も単純に見えて実は複雑にからみあった誤解や事実を、湯川が解明していく展開が見事で見ごたえありました。
映画「沈黙のパレード」作品レビュー
福山雅治演じる、変人だけど天才的頭脳を持つ物理学者・湯川学が、不可解な未解決事件を科学的検証と推理で見事に解決していく、大人気・痛快ミステリーシリーズ。映画第3弾となる今作では、柴咲コウ演じる、湯川のバディ的存在の刑事・内海薫と、北村一輝演じる、湯川の親友で内海の先輩刑事・草薙俊平が9年ぶりに再集結!「ガリレオ」の醍醐味ともいえる、3人の絶妙なやりとりがスクリーンに帰ってきます!
さらに今晩放送の劇場版の4年前の事件を扱ったフジテレビ・土曜プレミアム「ガリレオ 禁断の魔術」の放送も楽しみです。
原作はベストセラー作家・東野圭吾によるガリレオシリーズ第9弾「沈黙のパレード」。多数の登場人物すべてに繊細な人間模様が描かれ、その絡みあう群像劇と二転三転する展開に一気に引き込まれる極上エンターテインメントになっています。『容疑者xの献身』『真夏の方程式』に続き、福田靖が脚本、西谷弘が監督を務めました。競演キャスト陣にも、椎名桔平、檀れい、吉田羊、飯尾和樹、戸田菜穂、田口浩正、酒向芳、村上淳、岡山天音、川床明日香、出口夏希と超豪華なメンバーが集結。
そして、主題歌は9年の時を経て再結成となる福山雅治と柴咲コウによるユニット≪KOH+≫が担当。
福山雅治が書き下ろした主題歌「ヒトツボシ」は、物語に深く寄り添った、切なくも、愛にあふれた楽曲に仕上がり、柴咲の優しく力強い歌声が、心に響きました。
前2作を凌ぐ怒涛の展開と心揺さぶる人間ドラマに、シリーズ最高傑作の呼び声高い本作。きっと満足されることでしょう。
物語は冒頭、東京都菊野市の夏祭りの「のどじまん大会」で素晴らしい歌唱力を発揮した女子高生が登場するところから始まります。その並木佐織(川床明日香)は、音楽家・新倉直紀(椎名桔平)に見出され彼の家でレッスンし、いずれは歌手を目指すはずでしたが行方不明になってしまうのです。
その3年後、静岡県の火事跡から住んでた高齢女性と佐織の白骨が発見され、その家の息子・蓮沼寛一(村上淳)が逮捕されました。蓮沼は、15年前に幼女殺人犯として警視庁の草薙俊平(北村一輝)達が逮捕しましたが黙秘をつらぬき釈放されたという過去があったのです。
蓮沼は、今回も証拠不十分で釈放され、佐織の実家の定食屋「なみきや」に突然顔を出しますが、常連客によって追い出されます。
この事件について警視庁の内海薫(柴咲コウ)から捜査協力依頼を受けてたものの拒絶していた湯川学(福山雅治)は、たまたま客として「なみきや」に出入りしていて、その日も居合わていたため、事件に興味を持ち始めるのでした。
やがて本作の舞台である東京・菊野市では、今年も夏祭りで仮装パレードが開催されることになります。「なみきや」や湯川の新しい勤務先となった研究施設も菊野市にあったのです。
宮沢麻耶(吉田羊)率いるチーム菊野は「宝島と海賊船」を演出し念願の優勝。同日、蓮沼の窒息死の遺体が発見され、蓮沼の元仕事仲間で部屋を貸してた増村栄治(酒向芳)が容疑者に浮上します。
しかし証拠不十分で増村は釈放。湯川は、蓮沼の部屋が外から施錠でき、小窓を作れて気体を注入できることを発見。「液体窒素」による殺人を主張します。草薙らは裏取りを進めた結果、「なみきや」の常連客の中から、戸島修作(田口浩正)の経営する冷凍食品会社から「液体窒素」が持ち出されていたことが判明。湯川の仮説が証明されたかのように勢いづく捜査陣でしたが、戸島自身には夏祭り設営でアリバイがあったのです。
湯川は、この「液体窒素」を仮装パレードの宝箱で輸送したと推理し、宮沢や亡き佐織の恋人だった高垣智也(岡山天音)が容疑者として疑いますが、いずれもアリバイあり。肝心の並木家の2人は、蓮沼が死亡時には客の急な腹痛で病院へ連れそったので、どの容疑者も証拠不十分に。蓮沼を殺したのは一体誰なのか、湯川ですら見えなくなってしまったのでした。
町全体を覆う憎悪の空気…。 殺された佐織を愛していた、家族、仲間、恋人全員に動機があると同時に、全員にアリバイがあったのです。そして、全員が沈黙するというまさに沈黙のパレード。この沈黙には、容疑がかかったもの全員がそれぞれを気遣い、かばい合う想いに溢れていてホロリとしました。もうずっと真相など湯川が暴き立てず、沈黙の中で静かに終わらせて欲しいと願ったくらいです。
それは刑事の草薙ですら、同じでした。草薙は誰かが殺人犯として名乗り出ることを恐れていて、このまま蓮沼の被疑者死亡で事件を幕引きにしたいと、刑事にあるまじき願望を抱いていたのです。草薙は、過去に蓮沼を釈放したことで、その結果佐織が殺害され、菊野市の人達に蓮沼に対する復讐心を芽生えさせたことを後悔していたのでした。
それくらい、この沈黙は本作の登場人物たちの想いの結晶だったのです。
しかしそんな菊野市の人達や草薙の思いの詰まった「沈黙」に隠された「真実」を、湯川は丁寧な検証を積み上げて、裏の裏まで解き明かしていていくのです。
ガリレオ・シリーズは、東野圭吾原作の映画の中ではミステリ度が濃く、ヒューマンドラマの質も高めです。シリーズのファンにとっては、今回湯川の物理学者としての活躍が弱いと不満を漏らす方もいらっしゃることでしょう。それでもミステリにあまり縁がない一般の映画ファンから見たら、今回の「液体窒素」トリックには驚かされました。身体に全く傷をつけず、現場で争った証拠も残さず、殺害してしまうしてしまうアイディアは原作者ならではのものではないでしょうか。
今回も単純に見えて実は複雑にからみあった誤解や事実を、湯川が解明していく展開が見事で見ごたえありました。
「ガリレオ 禁断の魔術」も見ましたが、早くから殺害のトリックと容疑者が特定されてしまうところで「沈黙のパレード」が以下に優れたストーリーであるのか実感しました。「科学が禁断の魔術」であるというテーマ性が希薄だったという問題点もあったのです。