劇場公開日 2021年10月1日

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「キリストより私の方が健ちゃんば愛しとるよ」リッちゃん、健ちゃんの夏。 栗太郎さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0キリストより私の方が健ちゃんば愛しとるよ

2021年10月12日
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鑑賞方法:映画館

短編、「春」と同時上映。
リッちゃんは中学2年生。目の前の世界はまだ小さく、自分の感情にも正直。地味で人付き合いも苦手そうな健ちゃんに、「一生愛し続ける」ような言葉も戸惑いなく口にできる。それは無邪気で無防備に。なんでこんな男を?とも思うけど、たぶんリッちゃんにとっては、自分の知らない世界(授業で教えてくれる中納言朝忠の和歌)を知ってるというそれだけで、健ちゃんは特別な存在なのだろう。そして、隠れキリシタンの信仰が根強く残る島を舞台することで、リッちゃんの愛を試しているようにも思えた。島の人たちの信仰心と同じように真実なのか、それとも中二病的な一時の気の迷いなのか。
都会に住みだしたリッちゃんは、がぜん華やいでいた。もし、遠くの空を見つめるこの子が健ちゃんと再会し時、まだ愛してる、って言うのかな。いろんな世界を見て知って体験した後も、健ちゃんを好きって言えるのかな。たった去年くらいの事を"昔のこと"と吐き捨てるのか、きれいに化粧した顔が急にほころんで、駆け寄って抱き着いてしまうのか、そんな空想をさせられるだけとってみても、僕はこの映画が気に入っている証拠なのだろう。

上映後舞台挨拶。
スクリーンの前に立った健ちゃんは都会の青年で、さえない田舎のどんくさい青年ではなく、リッちゃんもマスクで目しか見えないのに美少女オーラがはじけてて、ニキビ面の娘の面影はみじんもなかった。映画の中の健ちゃんとリッちゃんはそこにはいなかった。だけどそれは失望ではなく、言ってみれば、映画の中の二人を宝箱の中に大事にしまったような、そんな感覚のものにしてくれた。

栗太郎