「三人の登場人物を通じて、社会病理を提起した心理映画」流浪の月 hideさんの映画レビュー(感想・評価)
三人の登場人物を通じて、社会病理を提起した心理映画
更紗と文、りょうの3人を軸としながら物語が展開している。
この映画は、恋愛を装っているが、恋愛を題材としながら、社会の病理を象徴的に担った3人 の心の軌跡が描かれている。
更紗は、家族(親戚)の息子から性被害を受け続け、性に対して拒否感を 持っている。文は母親の精神的虐待から、大人の女性を愛することに不安感がを持ち、小児愛の迷路に迷い込んでいる。
男を拒む女性と、女を拒む男性が、共感し引かれあう。しかし決して、この二人は互いを愛し合うことはないだろう。それは肉体的だけではなく、精神的にも共感はしあうが愛し合うことができない。何故なら、自分たちの過去の心の傷にとらわれ過ぎ、未来への共同志向がないからだ。
一方、りょうも問題を抱えている。それは、映画の最初のシーンにあった更紗との前戯や絡み合いで、うまく表現し暗示されている。それは、その後の更紗との展開でも描かれているように、恋愛を支配・被支配の関係ととらえている。共に協力する男女関係としての感覚がない。彼も、恋愛ができない種類の人間だ。
こうした人物(りょう)が生まれた家族背景は、映画には描かれているいないが、彼には強烈な劣等感があったはずだ。だから自分の劣等性を、更紗を支配することによって補償しようとしている。
映画の3人は、それぞれ違うようで、同じ種類の人間だ。自分の過去の暗い爪痕に捕まってしまった結果、今を真に生きることができず、他者へ関心をはらう余裕もなく、自分と自分の過去だけを見つめて生きている。そのため、他者への関心も、せいぜい、更紗と文が互いに 理解しあっている程度の狭い関係性の中にしかない。
それ以上の他者や社会への関心はなく、基本的に自分のことだけしか関心がなく、また過去の中でしか生きられないため、現実社会では、人間関係は薄く孤立している。
この映画は、現代社会の病理を、3人の登場人物を通じて提起した作品といえる。特に、心理描写がうまく映像化されているのではないだろうか、