「時を超え、世代を超えてオタクの魂を震わせる感覚が確かに存在しているのです」日本語劇場版 サンダーバード55 GOGO あき240さんの映画レビュー(感想・評価)
時を超え、世代を超えてオタクの魂を震わせる感覚が確かに存在しているのです
サンダーバードは英国では1965年に放送開始されました
日本では1966年4月からNHK総合で放送開始されています
だから55年周年なのです
それでThunderbirds are go! のタイトルコールをもじってGOGO な訳です
オタクなら先刻ご存知の通りですね
初代ウルトラマンの放送開始は、サンダーバードに遅れること3ヵ月の1966年7月のことです
だから55年経ってウルトラマンがリメイクされるというなら、サンダーバードもまた再登場するのは必然でしょう
庵野監督や樋口監督などのオタク第一世代に取っては、このふたつを幼少期に体験したことは彼らにとって、渾然一体となってオタクになる深い根っ子の部分を形成しているものなのです
不可分なものなのです
オタクなら既に2015年のサンダーバード50周年に、英国でクラウドファンディングでサンダーバード復活プロジェクトが始動していたことはご存知の方も多かろうと思います
日本でも当時は鉄人28号などの音声ドラマと主題歌が録音されたソノシートが数ページのブックレッド付きで売られていました
多分同じような形式のサンダーバードのレコードが19枚英国では発売されていたそうです
内容は放送されたお話ばかりのはずが、その中に3話だけ放送されていない内容のお話があったのです
それを元にして、その3作の映像を何とか作ることが出来ないかという夢のようなプロジェクトです
目標額は日本円にして3千万円ほどでしたが、それは軽くクリアされました
もしかしたら日本からも出資した人もおられるかも知れません
このプロジェクトが始動して、残された音声ドラマを元にして映像を一から作り上げた新作映像を動画サイトで断片的に既に観た人も居るかと思います
当時のオリジナル映像ももちろん使われていますが、新たに当時の手法で撮影したシーンが殆どです
つまり、そのサンダーバード復活プロジェクトは公式にはその時点で完結したのです
海外のサンダーバードファンはそれで満足したでしょう
しかし日本人のオタクがそれで満足できたでしょうか?
日本人の正真正銘のオタクがそれで納得するのでしょうか?
日本語吹き替え版で観たいはずです
それには日本語歌詞の主題歌が無ければならないのです
それを観て始めて、日本のオタクはサンダーバードの復活プロジェクトが完結したと満足できるのです
それを本作は成し遂げてくれたのです
正に偉業です
オタク第一世代が40年かけてなんとか、自らを夢中にさせたルーツのコンテンツの製作側になれたことに匹敵する偉業です
海外のそのような聖典のローカライズと言え、製作側として関与したのですから!
この経緯などについては、動画サイトにサンダーバード55のファンイベントのアーカイヴ映像がありますから是非ご覧になって下さい
東北新社の英断、日本人のオタクの夢を実現させてくれた樋口監督の辣腕に感謝するばかりです
日本のオタクの底力を示したようで誇らしくもあります
物語は、復活プロジェクトの英語版の3話を、シンウルトラマンの樋口監督が再編集して1本の映画にまとめあげたものです
サンダーバード活動開始のいわばゼロ話、エベレストの雪男事件、ロンドンの豪邸襲撃事件
いずれもペネロープが大活躍するお話です
従って日本語版のペネロープの声優さんの出来不出来きに本作の正否がかかっていました
満島ひかりさんの声の演技はペネロープそのもので全く違和感が有りませんでした
100点満点です
大正解の配役であったことは観てきた方全員の感想であると確信しています
パーカー初めそのほかの声優も皆さんも同じく違和感なし、文句無しです
本編の始まる前にチラッと写される当時の撮影手法を踏襲したメイキング映像には驚愕です
あのように簡単な撮影であれだけのクォリティーの特撮映像を作っていたのです
あの実在感、重量感はプロップモデルの精密さ、表面塗装のウエザリングの見事さ、実在する航空機の挙動を良く観察して理解して動きを吊操演に反映させている事、照明の光源の位置、カメラのレンズによって実現されていたのです
全て現場のスタッフの職人芸だったのです
名物の爆発シーンだって、そんな大規模なものではないのが、あのような効果満点の映像になっていたのです
円谷特撮が職人芸なら、ジェリー・アンダーソンも職人芸だったのです
まさにマジックがあのメイキング映像に凝縮されています
円谷特撮に欠けていたもの、負けていたものが何かが良く分かる映像でした
併映の「ネビュラ75」も、サンダーバード以前の「スーパーカー」のようなテイストが素晴らしいのでお見逃しなく
これも2020年コロナ堝の中、かっての人形と模型を使って新規に製作された作品です
さて21世紀の現代になんで55年も前の人形劇を見なければならないのでしょうか?
当時を知るオタクのノスタルジー?
もちろんそうです
ビンテージという感覚かもしれません
これらがあったから今がある
今日の特撮メカのルーツは全てここにあるのです
屈指の映画遺産「市民ケーン」の映像がどこがどうすごいのか、解説されなければ現代の人間には全く分からないようになったことと同じなのかも知れません
しかし懐古趣味だけで斬って捨てられない、21世紀生まれの人にとっても観るべき何かの価値があると思います
時を超え、世代を超えてオタクの魂を震わせる感覚が確かに存在しているのです
それはセンス・オブ・ワンダーです
それが21世紀に解凍されたというか、オタクがシビれるエッセンスの数々が現代のこの再製作版に当時の味で濃縮還元されているのです
この感覚が伝わるか、伝わらないか
オタクの感度が問われているのかも知れません