「黒人と白人、性ビジネスとモラル、冒険と罠。対照的な要素の変容や逆転が常識のアップデートを促す」Zola ゾラ 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)
黒人と白人、性ビジネスとモラル、冒険と罠。対照的な要素の変容や逆転が常識のアップデートを促す
ウェイトレス兼ストリッパーの黒人女性ゾラが、知り合ったばかりの白人女性ステファニから儲け話に誘われ、いざ遠征したら悪夢のような体験をする羽目に……という実話を連投したツイートがバズり、雑誌取材を受け、さらに映画化されるという、ごく短期間で有名人が生まれるSNS時代を象徴するかのような製作過程だ。
フロリダへの旅に同行するのは、ドライバーを兼ねる屈強な黒人男性Xと、ひょろっとして頼りない白人青年デレク。Xの支配下にあるステファニは、ファッションやメイクなどの外見から話し方(blaccentと呼ばれる黒人風のアクセント)まで、黒人文化の影響が色濃い。監督のジャニクザ・ブラボーも黒人女性であり、白人と黒人の力関係が逆転した状態で物語が進む本作は、ブラックスプロイテーション映画の現代的なバリエーションと位置付けることも可能だろう。
ゾラは旅先でストリップをして荒稼ぎするつもりが、それ以上のことを求められて窮地に陥る。そこでステファニとの性ビジネスに対するスタンスの違いが鮮明になっていくのだが、それぞれのモラルの基準という観点でも興味深い。
個人的な経験をからめて書くと、初めてアメリカを訪れた時はユタ州の田舎でしばらく滞在し、そこで仲良くなった白人男性シェフが後年アンカレッジに転居したときには2カ月ほど泊めてもらったこともあった。そうしたアメリカ人のオープンなところは本当に大好きだし、ユタ滞在時には何度かヒッチハイクもしたのだが、乗せてくれた人たちから「田舎ではいいけど、LAなどの大都会では絶対やるな」と釘を刺された。Japan PIというサイトで国別人口10万人あたりの年間行方不明者数を見ると、日本の69人に対しアメリカは180人だという。すぐに仲良くなったり、気安く車に乗ったり乗せたりといったオープンさがある反面、人身売買や殺人の標的になるリスクも高いということ。自らの“冒険譚”を後日ツイートできたゾラのケースは、不幸中の幸いと言えるのではないか。彼女も一歩間違えたら、行方不明者として闇に消えるか、死体で発見される可能性だってあったのだ。
ともあれ、これまで書いてきた要素に関して、常識をアップデートしなければと思わされる内容だった。