「妄想と気づき」アノニマス・アニマルズ 動物の惑星 R41さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0妄想と気づき

2024年12月24日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

映画ならではの映像表現を駆使した作品
一切のセリフがないという特長を持つ。
猿の惑星に似た環境設定だが、アニマルたちには一切の表情がなく、それは我々が動物を見ているのと同じようだ。
この設定はお互いがお互いを理解していないことを表現したのかもしれない。
そしてこれには起承転結というものはなく、奇怪な純文学の要素で描かれている。
映像時間が1時間という短さだが、緊迫した雰囲気で始まり、緊迫したまま終わる。
猿の惑星と同じく、動物の惑星故に人間は言葉を話せないし、彼らの鳴き声という言葉のようなものも理解できない。
この作品がフランスの作品だと知り、これが人間に対する風刺画の側面を持つことが伺える。
つまり、お前ら人間が動物に対しこんなことをしているのだと言いたいのだろう。
人間を前にした野生動物が気が落ち着かないのと同様に、ここの人間たちは動物たちに何をされるのか終始怯えている。
さて、
冒頭に登場するのは人間で、その脇にいるキツネは剝製にも見えるがその牙からは生々しく液体がしたたり落ちている。
辺りは森で霧が立ち込める。
この冒頭映像は回収されることがない。
この人物はしっかりした身なりで、この森を注意深く観察していることから、この物語はすべてこの男の空想なのかもしれない。
そして、
最後に、脱走した人間が森で鹿人間に追われる。
彼は森の番人で、おそらく人間がこの場所に入り込むことを警戒しているように見える。
鹿人間は脱走者を追いかけているとき、
謎の人物がライフルを発射するところで物語は終了する。
人間と動物の立場が逆転しているが、人間は衣服を着てシューズも履いている。
それにもかかわらず言葉もつかえず、お互いに協力もできず、知恵もない。
それなのにライフルを使えてしまう。
SFとしては矛盾だらけだ。
人間に対する風刺かと思えば、最後は人間がライフルを使って鹿人間を撃つ。
あれ? 結局人間が勝っちゃうの?
さてさて、
謎だらけのこの作品
妄想しかない。
冒頭の人物は昔ハンターだったのかもしれない。
彼は当時、いつものように森に入って鹿などを狩っていたが、ある日を境にそれをやめたのかもしれない。
当時、
彼が見た1匹のキツネの死体が妙に生々しく、彼は不意にもしこの世界が突然逆転したらどうなるのだろうという妄想を描いた。
そして今日も森の中で一匹のキツネの死体を目撃し、当時考えたことを鮮明に思い出した。
それは、普段動物を狩ることや鎖でつなぐことや戦わせることを、逆に考えてみたことだった。
その世界は人間にとってはとても悲惨で、現在のこの世界を作っているのが我々人間だということに気づいた。
武器を持ち、遠くから照準を合わせて引き金を引くということは、その瞬間命を奪うことで、必要でありながらも不必要な殺戮ゲームの側面を持ち合わせている。
彼は一通り人間と動物の逆転劇を思い描いた。
それはあくまで妄想に過ぎず、それゆえ人間は衣服を着て建物も現状のままだ。
そしてどうしても人間に対する希望を与えてしまう。
それが脱走と、追いかけてきた鹿の撃退だった。
当時男は狩りをしながらそこまで妄想し、霧を理由に狩りをやめて引き返したのだろう。
霧は動物たちにとっての恵みで、隠れ蓑になる。
こんな日くらいは、動物のことを考え狩りをしなくてもいいと、男は思ったのかもしれない。
そんなことがあったあの日を思い返すように、男は大好きな森に足を踏み入れた。
彼は当時の妄想をあまりにも鮮やかに思い出したことで、狩りをやめたのは良かったことだと再確認したのかもしれない。
そして彼は思った。
このような些細な気づきの連続が、この世界をより良くしていくのかもしれない。
妄想でしか理解できないが、面白かった。

R41