「無力感と向き合いながらも問いかけるもの」コレクティブ 国家の嘘 REXさんの映画レビュー(感想・評価)
無力感と向き合いながらも問いかけるもの
発端は基準より大幅に希釈した消毒液だった。
ライブハウス「コレクティブ」で多数の人間が大火傷を負い、担ぎ込まれた大病院で助かるどころか続々死者が出たことから、メディアが原因を究明するところから物語は始まる。
制作陣は、これは大事になると予感したのだろうか。よくぞ早くから密着してカメラを回したものだと思う。
調べるとその消毒液はビッグファーマからの賄賂授受で国内ほぼ全ての大病院に納品されており、更に病院は倹約のため消毒液を薄めてきた。結果、基準より10倍近くも薄められ、成分を再検査すると殺菌できる細菌はたったの四つで、さらに消毒液に抗生物質のきかない細菌が混じっていた。
調べれば調べるほど、保健相や大学病院、雪だるま式に汚職の暴露につながっていき、最終的には国家や法そのものをどうにかしないといけない話になっていく。ことの大きさに、正義感あふれる新大臣も、ジャーナリストたちも、どこから手を着ければいいのかと茫然自失として映像は終わる。
口封じとしか思えない、製薬会社の社長の交通事故死。
ウジのわいた患者の顔に布をかける医者。
臭い物に蓋をする政治家と病院。
内部告発した看護師が吐き捨てる。
「医者はすでに人間ではないのです」と。
なぜ25年も見過ごされてきたのか?と新大臣が嘆くが、汚職に無関係の人が事態に気がついたとしても、見て見ぬふりが続いてきたのだろう。
その小さな見過ごしが雪だるま式に大きな悪事になってしまう。一人一人の面倒なことに巻き込まれたくないという保身が、大きな歪みとなって跳ね返ってくる。
新聞記者は、人間は権力側に回ると腐敗するものだから、市民は権力が暴走しないよう監視しなければいけないと語る。
デモのスローガン「無関心は悪」。それが一番の根幹なのかもしれない。