「新体制による仕切り直し。新シリーズ開幕!」トランスフォーマー ビースト覚醒 緋里阿 純さんの映画レビュー(感想・評価)
新体制による仕切り直し。新シリーズ開幕!
2007年から始まったマイケル・ベイ監督によるシリーズを一旦リセットし、新3部作としてスタートした第1作目。ベイ監督はプロデューサーに回り、監督を新鋭スティーブン・ケイプル・Jr.にバトンタッチ。
時代設定も、常に現代を舞台としていた旧シリーズから1994年に再設定。一応、1987年を舞台としたスピンオフ作品である2019年の『バンブルビー』と繋がってはいるが、本作から入っても問題なく楽しめる。
まず第一に、今作で何よりも評価したいのが127分というコンパクトでバランスの良い尺の長さ。昨今のハリウッド大作では2時間半越えが当たり前となっている中、登場人物から敵味方の設定、クライマックスの一大決戦までを見事に纏め上げた脚本のテンポの良さには脱帽!
特に、人間側の主人公ノアの家族構成や前歴の紹介から、オートボット達と出会って事件に巻き込まれるまでが一切の無駄なく展開されるので素晴らしい。そこから博物館の見習い研究員であるエレーナを巻き込む事になるのも自然な流れで実に上手い。
また、終始常にアクションが展開されるペース配分も素晴らしい。冒頭でラスボスのユニクロンと部下のテラーコン達による侵略行為から、本作のキーアイテムであるトランスワープ・キーを守る為、テラーコンのリーダースカージとマクシマル達が対決&避難するシーンに始まり、ノアが車泥棒の際に後に相棒となるミラージュと共にパトカーの追跡を交わすカーアクション。博物館でのオートボットとテラーコンの初邂逅。ペルーの美しい大自然を背景に展開されるキー争奪戦と、マクシマル達と合流し結成されたオートボット&マクシマル連合軍によるテラーコンとの最終決戦と、盛り沢山。
また、そのどれもがシリーズを重ねる毎に“前作を上回らなければ”と言わんばかりにインフレしてゴチャついていった旧シリーズから一転、昼夜問わず何が起こっているのか分かりやすい情報の交通整理が成されていて非常に観やすい。
主人公ノアのキャラクターも、オートボットと出会うキッカケが車泥棒という違法行為なのだが、病気の弟の治療費を稼ぐ為というのは観客の同情を誘うし、オプティマスの召集でミラージュが強制的に発進する直前、罪の意識から手を引こうとするのも、後に世界を救う戦いに身を投じるヒーローとして○。
そんな彼の相棒を務めるのが、ノリが良く軽快な話術で、即座に人間との絆を育む事が出来るミラージュ。その性格の良さで異種族間の余計な軋轢をカットできる点や、オプティマスら他のオートボットとの橋渡し役として最高の仕事をしている。また、名前の通り幻覚を駆使してパトカーやスカージを翻弄する様や、変形を用いた走行中の前後の方向転換と、トランスフォーマーとして出来る事を次々と絵的に見せてくれるから楽しい。おまけに、クライマックスではノアのバトルスーツに変形するという激アツ展開まで用意されているのだから、否が応でもテンションが上がるというもの。
旧シリーズとスピンオフで主人公の相棒を務めたバンブルビーは、途中スカージによって瀕死の重症を追わされ、あわやこのまま新シリーズから退場か?と緊迫感を与えてくれる。クライマックスでエネルゴンによる復活を果たしての、華麗なスカイダイブアクションという見せ場も用意されており、旧シリーズの顔役は新シリーズでもバッチリ美味しいポジションをGET。本当に愛嬌があって可愛い(笑)
そしてファン待望なのが、今シリーズで遂に本格参戦するユニクロンの存在だ。シリーズ全体を通してのラスボスになると思われるが、名前だけはマイケル・ベイ監督による旧シリーズの第5作『最後の騎士王』でも示されはした。しかし、興行成績の不振からシリーズがリセットされた事で、遂に実現する事のなかったベイ版ユニクロン。あちらは地球そのものがユニクロンというトンデモ展開だったが、こちらでは惑星を喰らう超巨大トランスフォーマーとしてビジュアル的な存在感抜群に描かれる。一体、ベイ版ではどうユニクロンと決着をつけるつもりだったのかは気になるが、今シリーズでのユニクロンも魅力的な悪役なので、この先どんな活躍を見せるのか楽しみだ。
楽しみと言えば、エンドロールの直前でノアをスカウトした“G.I.ジョー”の存在だ。同じハスブロ社の玩具商品として、あちらも映画シリーズ化が成されているが、まさか正式にクロスオーバーするとは思わなかった。このサプライズがあるからこそ、ノアがバトルスーツを纏って戦う展開を予め盛り込んでおいたのだろうか。
ファンサービスと言えば、旧シリーズの後期3部作(になる予定だった)の主人公を演じたマーク・ウォールバーグの名前を登場させたり、旧シリーズ前期3部作のキーアイテム“オールスパーク”を彷彿とさせる「スパークに誓って」という台詞等、シリーズを支えたファンをニヤリとさせる小ネタの数々も楽しい。
唯一惜しむらくは、マクシマルの面々の活躍が後半に集中する都合上、些か物足りなさを感じさせる点だろうか。特に、見るからに強そうなライノックスとチーターの活躍はもっと観たかった。とはいえ、ユニクロンと因縁のある彼らもまた、オートボットと共に地球に残っており、今後のシリーズで十分に活躍する可能性はあるので、それに期待したい。
新シリーズの開幕を飾るに相応しい抜群のクオリティとサプライズ。新シリーズとして最高のスタートを切ったのは間違いない。
一度は興行成績が下火になり、存続が危ぶまれたシリーズだが、作中のバンブルビーと同じく華麗なる復活を遂げてみせた。
シリーズの今後が今から楽しみで仕方ない。