「イギリスの美しい風景、華やかな衣装、かわいいジュディ・デンチ」ブライズ・スピリット 夫をシェアしたくはありません! ニコさんの映画レビュー(感想・評価)
イギリスの美しい風景、華やかな衣装、かわいいジュディ・デンチ
イギリス風味の笑いと皮肉を、肩の力を抜いて楽しめる映画。終始目が離せない面白さがあるとはお世辞にも言えないが、衣装や風景がきれいでジュディ・デンチがかわいかったので個人的には印象が良かった。
主人公のチャールズは妻をゴーストライターにしてのし上がったクズ小説家。召喚された亡き妻エルヴィラは、アイディアを授けてはくれるがポルターガイストによるDVがえぐい。現妻ルースは業界権力者の娘で、夫への愛より名誉欲。霊媒師マダム・アルカティは、同業者の間でもインチキで名が通っている。
ろくな登場人物がいないが、唯一本人なりに(←ここ大事)自分の使命に誠実なのがマダム・アルカティ。結末はそれぞれの心掛けにふさわしいものになる。
チャールズの友人がメタンフェミン(覚醒剤)を「自分は数年使用しているが習慣性はない」と勧めてくるとか、マダム・アルカティが召喚する霊に「そこにいるのなら1回、いないなら2回ラップ音を鳴らして」と要求するとか、本人にしか見えない霊と格闘する姿の滑稽な描写とか、お笑いポイントはベーシックというか古典的なので(この辺どこまで原作の戯曲に沿っているか知らないが)、「お約束」のぬるさを楽しむ呼吸をお勧めしたい。
とはいえ、テキトーな霊媒師を演じるジュディ・デンチはなかなか新鮮だ。彼女は主にやり手の女性や高貴な役柄などで相手を圧倒する存在感を放ってきた印象があるが、こういう愛嬌ある役も自然にこなせるのはさすが。
映像の面で出色なのは、エルヴィラが出現ごとに取っ替え引っ替えする衣装。マニッシュな乗馬の衣装(乗馬中に死んだので)やモードなドレスの数々が、レスリー・マンのタイトなプロポーションとクラシックな美貌によく映えていた。
また、イギリスの建築物や風景も見応えがある。チャールズが住む瀟洒なアールデコ形式の邸宅、アルカティが登場するリッチモンド劇場、スタイリッシュなサヴォイ・ホテル。
アルカティの家のシーンで、スクリーンいっぱいに広がる印象的な白亜の断崖はイーストサセックス州の景勝地セブンシスターズ。彼女が薬草を摘む庭のしつらえはイングリッシュガーデンだ。
ユルいノリの物語をつまみに、イギリス人のアイロニーと諸々の美しい眺めを楽しむ。期待が大き過ぎなければ、こんな映画も悪くない。