「お気楽なドンパチ喜劇には不遇の時代」ヒットマンズ・ワイフズ・ボディガード 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)
お気楽なドンパチ喜劇には不遇の時代
派手な銃撃戦、カーチェイス、大爆発に笑いもたっぷりでお気楽に展開する、ハリウッドお得意の活劇コメディではある。2017年の「ヒットマンズ・ボディガード」は評価はそこそこでも興収で世界的に大成功し、続編製作も当然の流れだった。
さて本作、優秀な警護人マイケル(ライアン・レイノルズ)が過去の失敗で精神を病み、仕事を離れイタリアでバカンスを楽しもうとするところから始まる。前作で警護した殺し屋ダリウス(サミュエル・L・ジャクソン)がマフィアに拉致され、ダリウスの妻(サルマ・ハエック)が無理矢理マイケルに夫救出を手伝わせる。さらに、ギリシャの富豪(アントニオ・バンデラス)がEUによる祖国への経済制裁を逆恨みし、クロアチアのインフラを壊滅させたハイテク兵器でテロを企てて…。
…とまあ、こんな感じで欧州のあちこちで銃撃戦や大爆発が起きるのだが、マイケルが被弾や車の事故などでボロボロになりながらも軽傷どまりだったり、ダリウスと妻が新婚気分のままだったりと、お気楽ムードは一貫している。2018年製作発表、2019年撮影開始、当初は2020年夏公開予定だったというから、もちろん製作段階では今のウクライナ情勢など予見できるはずもない。
しかし、2020年春以降のコロナの世界的流行、そして今年2月末に始まったロシアによるウクライナ侵攻と、この2年ほどで世界は“平時”から遠ざかっていく一方だ。今この時間もロシアと欧州に挟まれたウクライナの地で戦闘が続き、大勢が死傷し、EU諸国が難民を受け入れ、経済制裁、情報戦、サイバー戦が繰り広げられているさなか、「欧州でのドンパチをコミカルに描く娯楽映画を観る」という行為に何か後ろめたいものを感じてしまうのは評者だけではないはず。もちろん作品に罪はない。少しでも早く、本作のようなエンタメを屈託なく笑って楽しめる日常が戻ることを切に願う。