「稀有な邦画の創造力、確かな息が役者によって引き立つ」リング・ワンダリング たいよーさんさんの映画レビュー(感想・評価)
稀有な邦画の創造力、確かな息が役者によって引き立つ
鋭い眼光に映された想像。作品自体は少し奥行きを持っていないが、その余白が作品の異質な強さを兼ね備えている。凄く不思議なエナジーを感じる。
タイトルが何より意味を持っていて、噛みごたえを生み出している。リングが輪廻のような流転とすれば、ワンダリングは発見している最中と捉えられる。ここは多少の無知が出ているみたいだが(笑)。気力を失いつつもプライドだけは一級の主人公、草介。 その鈍感さは流石に気になるが、巡り会いに一点の曇を持たず、起きた事象を受け止めていく過程に不思議と引き込まれる。
103分にしては動きが少ないが、それが返って作品の意義を持っているようにすら感じる。むしろ“もっと観たい”と渇望させる。途中で好きな作品になる予感がした。作品の答えも腑に落ちる一方で、まだ何かあっても良かったとも思う。ストーリーとしての完成度はかなり高いが、そのプロットを広げていくと、バランスを落としかねない危うさを持っている。
ただ、漫画パートと現実パートをどちらも画一的に描いたことによる単調さは否めない。カラーの出し方も変わらないため、その個性が被ったのは勿体ない。もっと分別することで、没入感が欲しかった。
主演は笠松将さん。『君は永遠にそいつらより若い』でも魅せた、自然体なオーラが作品の中で香る。その鈍感さも彼のピースに感じる。同時に、ワンダリングする出会いを不確かな感情を背負いながら生きる、そんなまどろみが漂う。そして、それはきっと彼の作品として色を付けている。また、阿部純子さんの染まり方も美しい。尖りの中に微かな柔らかさがあり、これまたいい混ざり方をしている。役者の靭やかさもこの作品のポイントの1つといえる。
こういう映画はあまりないかも。単に柔さを持っているのではなく、少し脆いのに色が強い。少しあっさりしているものの、自分の好きなタイプだと、発見をくれるような映画だった。