「わかりやすいのかわかりにくいのか、それが問題…。」TANG タング yukispicaさんの映画レビュー(感想・評価)
わかりやすいのかわかりにくいのか、それが問題…。
今年234本目(合計510本目/今月(2022年8月度)10本目)。
今週は今日(木曜日)が祝日で映画の公開が変則日程(明日は極端に少ないが、来週金曜日がムチャクチャ多い…)というスケジュールです。
さて、こちらの映画です。
タイトル通り、「分かりやすいか、分かりにくいか」、かなり極端な気がします。
実はここでは特殊や説明などで最初の1行に書いてある通り、もとはイギリスの小説があります。ただ、映画を見てもイギリス映画というようには到底思えず、普通に映画を鑑賞する限りは日本映画というように解釈するのではないかと思うのですが、ここがトラップで、日本とイギリスでは当然ものの考えも違えば法律も違うので、「何を言っているのかまるでわからない」という部分は相当多数存在します(この点後述)。
一方、それらに目をつぶれば、アニメ作品枠と同じかそれと同じくらいに子供向けに作られたのだろうというふしも感じられ、その関係でストーリーのひねりはかなり少ないです(だいたい想定通りの展開になるので、何がなんだかわからないという点にもならない)。
採点は下記まで参考にしています。
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(減点0.3/趣旨が(特定の層に、意図的に)理解しづらい)
・ 上記の通り、ストーリーとしてはわかりやすいし、子供向けだとも思うのですが、この映画はあたかも日本で作られた映画のように見えるし(そして、ストーリーの大半は日本)、理解は「多くの方にとっては」しやすいほうではないか…と思います。
ただ、致命的なのはこの映画はイギリスの当該小説を参考にして作られているため、イギリス基準のストーリーであり、一部の法律ワードや行動が日本のそれ(民法や各種行政法規その他)と比較すると???な展開になってしまい、大混乱を招きます。
典型的に「法律系の資格や知識がある人(資格や、法学部出身の方など)をハメにきている部分」が存在する映画で、ちょっとこれはなぁ…というところです。
代表的なところでは、この映画の主人公(誰にとるかは複数考え方があっても、追い出された夫のほう?ととるの妥当?)の妻は設定上弁護士であるのに、家に捨てられているロボット(この映画の「もう1人の」主人公)に対して適切な対応をしていない(遺失物にあたるので届け出が必要)、イギリスが元であるという事情から「所有権」という語が突如出るものの、日本には「所有権」は当然存在しても「占有権」という似た語もあり、解釈次第によっては(知識を持っている人は)ストーリーの理解が完全に破綻してしまいます。
極論、「法の適用に関する通則法」(日本以外で、日本人がトラブルに巻き込まれたとき、どこの国の法を適用するか、を決めている法。超マイナー)まで頭の中をよぎるくらいです。
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(参考/所有権と占有権の異同や例など)
・ 日本に限らず民法では物権としてはいろいろな権利が存在しますが、一番代表的かつメジャーなのは「所有権」です。しかし、日本には「所有権」以外の「所有権に似た権利」が存在します。占有権などがそれに該当します。
一方で、日本に限らず多くの国では、全員が全員泥棒だの何だのということはないので、人が普通に、隠し事などなく持っているものは、その人に占有権があると推定されます(反対になる証拠があげられるまで、その推定は覆らない)。占有権と所有権はイコールではありませんが(後述)、このために「物の取り合い」というものは起きないようになっています(占有権の侵害に対しては対応が可能。占有回収の訴え等)。
一方で所有権と占有権の違いが明確に出る例が身近にあります。パソコンでもスマホでも分割購入された経験をお持ちの方はいらっしゃると思いますが、ローン購入の場合、「所有権留保」という概念が適用されることが一定程度あります。「ローンを返すまでは所有権はローン会社預かりで、ローンを全額返済したら所有権は返します」というもので、一方でローン返済中でもスマホでも何でも占有していれば占有権は本人にあるので、この場合は「所有権と占有権が明確にずれる」ケースです(ローンを返済すれば、所有権を返してもらえるので、所有権と占有権の帰するところが一致する)。
映画内で「所有権がどうこう」という一部のセリフは、日本国内では解釈が微妙で、占有権や占有訴権と絡むと最悪ストーリーが破たんします(なので、そこに突っ込みをいれるとストーリー自体が根本から成立しなくなる)。ここの「所有権がどうこう」といった「法律ワード」は解釈上飛ばしたほうが良いくらいです。
…というかこの映画、民法が試験科目にある法律系資格(弁護士~行政書士試験)持ちの人の理解を意図的にハメてくる部分があり(あるいは、法学部の学生さんでも)、何とかならなかったのか…と思う一方、これら法律系資格の所持者は3資格で14万人程度(令和2年度統計)であり、「超ビッグシアターで1人いるかいないか」レベルで、「そこまで対応がまわらなかったのか」という気もします(イギリスの原作ストーリーを尊重しつつ日本の法律に従うようにセリフを変えると全部が破たんしてしまう)。