「テーマとして「家族」を扱うだけでなく、ほんとに家族ぐるみで作られた一作。」オールド yuiさんの映画レビュー(感想・評価)
テーマとして「家族」を扱うだけでなく、ほんとに家族ぐるみで作られた一作。
映画冒頭にシャマラン監督から日本の観客に向けたメッセージ映像が上映されました。なんでかな?と思ったら、本編上映中に思わず吹き出しそうに。これまでもシャマラン監督は自作にカメオ出演していたけど、本作ではこれはあからさまだろ!といった登場の仕方をしています。冒頭のメッセージ映像には、監督の顔を知らない観客に対する目配せの意味もあったことは間違いなさそうです。
こんな風に本編と関係のない話題に字数を割くのは、内容についてどのように触れても未見の方の興を削ぐ可能性があるためです。ひとつ言えるのは、今回もまた、シャマラン監督の仕掛けは見事だった、ということです。予告編の映像で分かる範囲で内容を説明しておくと、本作は急速に年を取る不思議なビーチが舞台の、いわゆるタイムサスペンスということになります。一見して奇抜で荒唐無稽なアイデアが光る空想的なスリラーかな、とも思えるのですが、実際は単なるスリラーとしてだけではなく、しっかりと現在社会批判の視点が含まれているところが素晴らしいです。
また予告編では、子供達が急に大人になるという部分がクロースアップされていますが、成人にとってこのビーチに滞在することは、急速に老いるということを意味します。つまりビーチで過ごす時間は、人生全体の暗喩となっており、急速に変化する身体を目の当たりにして、老いると言うことはどういうことなのか、を考えさせる作品ともなっています。パンフレットの解説によると、こうしたテーマはシャマラン監督自身が感じている、年齢とともに変化する心身に対する自覚とも深く関わっているとのこと。
興味深いのは、本作はシャマラン監督の全くの創作ではなく、彼の作品としては珍しく原案となった作品があることです。『Sandcastle』というグラフィック・ノベルで、テーマとしてはよく似ていますが、本作の中核的な謎や展開までは一緒ではないので、事前に読んでもそれほど問題はないでしょう。ただできれば、本作鑑賞後の方がより深い読後感を味わえるのではないかと思います。
なお本作では、シャマラン監督の娘、イシャナ・シャマランがセカンドユニット監督を務めています。家族を扱った作品と言うだけでなく、家族ぐるみで作った作品ということですね。