劇場公開日 2021年8月6日

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「へんてこ西部劇スリラー(ほんのりジム・トンプスン風味)。狙いは良識派保守VSホワイトトラッシュ?」すべてが変わった日 じゃいさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0へんてこ西部劇スリラー(ほんのりジム・トンプスン風味)。狙いは良識派保守VSホワイトトラッシュ?

2021年7月30日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

「西部劇テイストのサイコ・スリラー」との映画会社の触れこみ。
「なんじゃそりゃ?」とつい気になって視聴。
たしかに、なんだかまあまあ得体の知れない映画だったなあ(笑)。

西部の牧場主夫婦を主人公にとる、馬と銃に彩られた物語という意味では、西部劇風。
再婚家庭で起きる孫の連れ去り事件という意味では、ドメスティック・サスペンス風。
追跡の過程で、美しい風景と夫婦の心の旅が重なる点では、ロード・ムーヴィー風。
荒地の一軒家に恐ろしい家族が待ち受けるという意味では、サイコ・スリラー風。
『悪魔のいけにえ』や『サランドラ』のようなホラー寄りの側面も漂ってくる。

ジャンル感のよくわからないまま、成り行きで映画のテイストまでがくるくると変わっていくので若干とまどうが、突き詰めて考えてみると、やはり本作の本質は「ノワーリッシュなサイコ・テイストを宿した現代版の西部劇」ということなのだろう。
信念と生き方を異にするふたつの家族が、荒野のただなかでぶつかり合う。
結局は、そういう話だ。
最終盤の一種異様な展開もふくめて、「老保安官の出てくるウェスタン」だと思えば、あれもこれも、いろいろと得心がいく。原題の『Let Him Go』というのも、いろいろ意味がかぶせてあるんだろうけど、いかにも西部劇っぽいし。

ただ映画としては、出来自体にしっくりこない部分も多い。
ダイアン・レインの言動に全編を通じていまひとつ共感できないのは、それこそ作り手の「狙い通りの仕様」だから、そこはべつだん構わない。
問題は、もっと根本的な部分だ。
まず、ケヴィン・コスナーとダイアン・レインが小ぎれいすぎて、あんまり牧場で細々と暮らしている老カップルに見えない(なんかこいつらハリウッドの香りがするんだよw)。あまりにふたりの息子の死にざまがくだらなすぎるうえ、そこのシーンの作りこみが弱い。あと、孫がちっとも可愛くない……これは結構重大なマイナス点だ。
時系列のつながりや回想シーンの挿入が、わざとというよりナチュラルにわかりにくい。シーン間のテイストの均しがうまくいってないので、展開がどうにもちぐはぐだ。いかにも出しときゃいいんだろ、みたいなインディアンの青年との交流も上滑りだし、夫婦で急に盛り上がっていちゃつくシーンもかなり前後から浮いている気がする。馬の出てくる某シーンは個人的に全く受け付けないうえ、ラストでそんなつなげ方しちゃあさすがにダメだろうと思う。総じて、力を入れて書かれたセリフにかぎって、外してる(サムい)感じがする。

悪党一家が街であれだけ治外法権扱いされている理由も、映画だけからはイマイチよくわからないし、だからこそ地元警察の対応がありえなさすぎて現実味を欠く。奥さんがわざわざ町から移動してあそこに夫を連れて行かねばならない理由も僕にはつかめなかったし(町だと見つかるから?でも旦那あの状態だよ?)、あれだけのことをされたらもっと司法上できることがいっぱいあるんじゃないのか、と普通に思う。
あと、総じて見通しのいい風景にしか見えないんで「ちゃんとついてこないとたどり着けない迷路のような土地」に全然見えない。最終盤の展開でも、ビッグママがなんであんなことやっちゃったのかは本当に理解に苦しむ。

とはいえ、モーテルで起きる「あの衝撃的展開」以降は、しょうじき十分に、嘘偽りなく楽しかったし、「そういう映画」としてはまあまあぶっ飛んでいて、個人的に嫌いじゃない。どこか歪み方に、ジム・トンプスンの香りがするんだよね……そういう意味で、最初に「ノワーリッシュ」と言ってみました。

でも、コスナーにせよ、監督にせよ、この原作の何がそんなに「ぐぐっと刺さって」、映画化までしようって話になったんだろう? 原作も、こんなヌエみたいな妙ちきりんなノリの話なんだろうか。伝えたいことの「核」がとらえにくいストーリーであるぶん、そこはちょっと気になる。

意外と、トランプ政権下で鬱屈した人たちの、政治的な意図とかあるんじゃないのか?

「同じ共和党支持者でも、古き良き保守派の良識的な白人と、どうしようもない無知で傲慢で犯罪的なホワイトトラッシュの双方がいて、後者にはみんなだってほとほと困り果ててるんですよ、くれぐれも一緒にしないでくださいね」みたいな(笑)。

コスナー自身は、気に入れば民主・共和どちらも応援する人だけど、たしかブッシュ親子とも懇意だったもんね。

じゃい