劇場公開日 2022年4月1日

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「坂道を転がり落ちる、とはまさにこのこと、な一作。」英雄の証明 yuiさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0坂道を転がり落ちる、とはまさにこのこと、な一作。

2022年8月1日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

『白い牛のバラッド』に続いて、イランの司法制度をテーマに取り入れた作品です。善行によってメディアに祭り上げられて、突然「時の人」となった主人公が、ふとしたきっかけでメディアにも世間にも背を向けられ苦境に陥る、という物語の筋そのものにはそれほど真新しさはありません。しかし主人公の置かれた特殊な状況、そしてイランの司法制度の特質などが絡み合って、事態はどんどん思わぬ方向に進んでいきます。この、「やめときゃいいのに、なんでそんなことを…」という人の弱さ、しでかしの取り返しのつかなさ、を描くファルハディ監督の語り口は、ちょっといじわるだな、と思わなくもありませんが、それにしても見事。

SNSによって評判も悪評も燎原の火のごとく伝播する、という現象は、映画の演出として使ってしまうと今となってはやや陳腐な印章を受けるほどですが、イランでは本作のように一般の人の善行を称賛するという番組が非常に人気があるということだけに、視聴者の期待を裏切った時の反動も大きくなってしまうのでは、と感じました。

路上の乾いた空気感、商店街の雑多な事物が凝集した質感を、本作のカメラは見事に表現していて、この点でも見応えがあります。

それにしても、日本では民事事件となるであろうと思われる行為でも、イランでは刑事罰を受けるという、いわゆる厳罰主義には結構衝撃を受けました。

yui