「一見すると「些末なシーン」」すべてうまくいきますように TWDeraさんの映画レビュー(感想・評価)
一見すると「些末なシーン」
冒頭、急を要する電話でバタバタと家を飛び出すエマニュエル(ソフィー)。エレベーターを待つのも惜しい様子で階段を駆け下りますが視界がぼやけます。どうしたのかと思えば、家に戻ってコンタクトを入れるシーン。一見すると「些末なシーン」にも思えますが、このシーンで如何にエマニュエルが焦っているかを伝えています。そして、その後の怒涛のような出来事から一旦帰宅し、そのコンタクトを外すところまで見せるなど「小道具」一つで状況や心情を表す演出、裏切りません。
脳卒中を機に介護が必要になったことで、生き続けることよりも尊厳死を求める父。姉妹は思い悩みつつも父の絶対的立場と、頑なな意志の強さにその計画を進めざるを得ません。
それでも良い展開から当然のように「期待」を持つ娘たち。ところが、期待したばっかりに「落胆」も深くなる父の言葉に、彼女たちへ同情しきりです。
とは言うものの、彼女たちにも生活と家庭があり、感傷に浸っている間もない感覚を実感できる展開のテンポの速さもきちんと効果的です。
そしてソフィー・マルソーの「疲れ切った顔」が素晴らしくリアルでいい。勿論、相変わらずの美しさはベースにあるのですが、発散を兼ねて余裕があればスポーツしているシーンに、彼女自身の美貌キープへの意識の高さも重ねて感じ取れます。
さらに、他のキャストも皆素晴らしく、父・アンドレ役のアンドレ・デュソリエは頑固だけど茶目っ気たっぷりでついつい笑わされますし、シーンは少ないながらも母・クロード役のシャーロット・ランプリングも相変わらずの存在感で強く印象に残ります。
「尊厳死」という難しい題材ながら、やはり「選択肢」という観点においては議論することくらいは余地があってしかるべきと思える、いいバランスの作品ではないかと思います。