劇場公開日 2022年4月1日

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「誰とも共感し合えなかった人が巡り会う『ニトラム NITRAM』にどことなく似ていますが、より奇怪でグロテスクなこちらに魂の救済があるのが不思議です」TITANE チタン よねさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0誰とも共感し合えなかった人が巡り会う『ニトラム NITRAM』にどことなく似ていますが、より奇怪でグロテスクなこちらに魂の救済があるのが不思議です

2022年4月5日
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鑑賞方法:映画館

冒頭から登場人物への感情移入を撥ねのけ、前作同様のグロテスク極まりない描写を畳み掛ける理不尽な展開、それでいて凄惨極まりない殺人描写に脳天気な劇伴を被せる無邪気なギャグも挿入、尖端恐怖症には拷問のようなシーンも織り交ぜながら頭の中で描いていたありとあらゆる展開の遥か上空を軽やかに飛び越えて全く想定外の結末に着地。何気に前作『RAW 少女のめざめ』とほとんど同じ感傷に満ちていてジュリア・デュクルノー監督の突き抜けた作家性に背筋が凍りました。

主人公のアレクシアを演じるアガト・ルセル。何者も寄せつけない狂気を全身から放つ演技が強烈で、短編映画に何本か出たことがある程度のキャリアとは信じられません。どう考えても世間と折り合いをつけられるわけがない彼女が巡り会うのが失踪した息子を忘れられない消防隊の隊長ヴァンサン。演じるヴァンサン・ランドンは『すべて彼女のために』で体現した、殺人容疑で実刑が確定した妻の無実を信じて暴走する主人公の狂気とは全く次元の異なるものを表現していて、開いた口が塞がりませんでした。

正直万人にオススメできるような作品ではありませんが、今まで観たことないものを観たい人なら絶対観るべき。ちなみに客は私の他に1人いただけでした、もったいないです。

よね