「この狂った世の中で信じられるものが欲しかった」TITANE チタン とぽとぽさんの映画レビュー(感想・評価)
この狂った世の中で信じられるものが欲しかった
例えば性もフェチも越える多様性、すべてを通り越した先にある愛。自分勝手に女性性に群がる男たち、刺す、燃え盛る(=家庭など平穏を壊すもの)、そして歪な親子関係…など繰り返されるイメージの中で、命を容赦なく奪う側から守り、与える側へと変化していく奇妙奇天烈な(ジャンル分け不可能)ドラマ。アガト・ルセルの体当たりな熱演が引っ張る!
老いに勝てないと知りつつも抗おうとしている義父は消防士として、あるいは32歳の主人公ももしかするとダンサーとして、ともに年齢的に現役の厳しくなっていきそうな傷(=身体的欠損)を背負った二人。そんな不思議な疑似親子モノからの年齢差純愛としてヘンテコな面白さ、スリリングな興奮、そして…。
もっと理解できない"劇薬"的作品を想像していたら、思ったよりちゃんとした作品だった。神経逆撫でブッ飛びジュリア・デュクルノーがまたも挑戦的かつ衝撃的なビジョンを打ち立てやってくれた!例えば同監督前作『RAW』(個人的にはハマらなかった)でどれほどショッキングなシーンが展開されても、それはあくまで"食人目覚める系"とでも言うか同ジャンルから抜け出さない範疇のものだった気がする。
それに対して、本作はよりオリジナルで挑発的。『クラッシュ』ミーツ『鉄男』などレッテルも無意味。一見、普通の映画ではあまり見ることのないようなシーンから雑多にこんがらがった印象も受けながら、意外と芯・軸は通っているという不思議な作品で、逆に困惑しながらも最後は落ち着くところに落ち着いてきれいに纏まっていた。すごく好きかと言われたら悩むけど、このカオスな面白さになんだかんだ魅了されてしまった。
♪She's Not There(まさしく彼女は"いない")