「なぜ、主人公を途中で『別人』にしてしまったのか」ニトラム NITRAM BONNAさんの映画レビュー(感想・評価)
なぜ、主人公を途中で『別人』にしてしまったのか
実際に起きた『ポートアーサー事件』を題材にした映画。主演のケイレブ・ランドリー・ジョーンズ氏はこの作品でカンヌの男優賞を取っていますよね。演技としては本当に文句なし。素晴らしいです。
なお演出についても、実際に銃を乱射する場面を省いたり、BGMを自然界の音に任せるなどした結果、シンプルに主人公の孤独感に共感できる見せ方になっていたと思います。
本来であれば星4です。
ただし、一箇所どうしても腑に落ちなかった部分があったため、3にしました。
理由についてはただ一点のみですが、犯人:マーティン・ブライアントは知的障がいの疑いもあったようです。知能検査を行った結果はIQ66、11歳レベルだったと言及する記録もあるようです。
実際にこの映画の冒頭では、主人公のマーティンが もしかしたらそうじゃないかな? と客に思わせるような描写がいくつも出てきます。
火傷をしても花火をやめなかったり、運転中に妨害行為を働いたり、大切な人の葬式で祝いの格好をしたり。
ただ、ある瞬間に突然それが《治る》。
まるで今まで、彼自身苦しみ続けていたことが嘘であるかのように。
実際の事件でも、障がいの疑いはあったが冷静に判断して犯行に及んだと見なされているようです。
恐らく、この映画の方向性としては、銃のある社会NGという点に重点を置きたかったのでしょう。
あるいは……障がい者に対する偏見の目を産まないために、このような解釈にしたのか。
ちょっとひどいな、と思いました。
もう二度と同じことを繰り返さないためにも、周囲がダメなことはダメなんだよ、と理由を添えて伝える必要があるよな。と。
それを伝えずに、トラブルとなりそうなものを排除する。
それはつまり、私達も彼を「ニトラム」と呼んだ人々と同じじゃないのか、と。