「はまり役」ニトラム NITRAM カールⅢ世さんの映画レビュー(感想・評価)
はまり役
歴史的流刑地でもあるオーストラリアタスマニアのポートアーサー流刑場跡で実際に起きた銃乱射事件を題材にした映画。犯人に同情するか否かで好き嫌いや評価が分かれるでしょう。事件の再現を目的とした映画ではなく、犯人の人物像を描くことをメインにしています。銃砲店や試し撃ちシーンはありますが、乱射による殺害シーンはありません。主演の役者に対する印象にも大いに左右されてしまうでしょう。主演のケイレブ・ランドリー・ジョーンズは最近ではニューヨーク親切なロシア料理店やアウトポストに出演していました。印象に強く残っているのはニューヨーク親切なロシア料理店の方で、社会適応が苦手な人物役を演じていました。彼以外の主要人物役はすべてオーストラリアに由縁のある役者です。NITRUMというのはMARTINの逆さ読みで、子供の頃から馬鹿にされて呼ばれていたアダ名。職もなく、ブラブラしているひとり息子に両親は手を焼いていますが、具体的な対策はとれません。母親(ジュディ・デイビス)は厳しく冷たい目線、父親(アンソニー・ラパリア)は逆で、優しく、甘やかしていました。男親と女親の違いの描写、演技が光っていました。彼の行動は衝動的であったり、両親にきつく言われた言葉が時々フラッシュバックして、不適切な行動をしてしまう場面が多々あります。歪んだ性格やネガティブな感情の発露にも見えます。しかし、根は素直で、馬鹿正直です。また、花火や銃に対する強い執着がありました。そして、他人にもそれをあげようとします。稚拙ですが、自分の好きなものを他人に勧めることによって、友達になろうとしているように思えます。
銃砲店の対応がまずかったのはあきらかです。彼にとってヘレナ(エシー・デイビス)の存在は噛み合わない両親との関係を埋めてくれるもので、クルマ(黄色のアウディ)や家、大金を貰ったことは大惨事を招く大きな要因となりました。ヘレナもちょっと変わった人でしたが、妙な魅力をエシー・デイビスがうまく醸し出しています。彼らは強い共依存の関係になるべくしてなったと思われます。
彼のように知能が足りなくて、コミュニケーション下手で、変人扱いされてきた人間への哀れみ、同情を越えたシンパシーを抱く人もいると思われます。銃規制の厳しい日本では発生しにくい事件ですが、もしひょんなことから半自動ライフルを手にしたら?
ちょっとダークなことをいろいろ考えてしまいます😎