「悪人じゃなくても悲劇は起こし得る」ニトラム NITRAM バリカタさんの映画レビュー(感想・評価)
悪人じゃなくても悲劇は起こし得る
元となった「ポート・アーサー銃乱射事件」、よく知らないので観賞後ネットで検索。犯人は終身刑で存命、作品内で描かれる出来事(父の件、富豪の存在)は形を変えていますが事実のようですね。もちろん、ニトラム自身の人物像も。ですが、犯行動機は明らかになっていないそうです。ですから製作陣は多くの時間をかけて調査し、人物像を浮かび上がらせ犯行に至った経緯(動機)を描いたのではないかな?って思います。それほどにニトラムの日常の感触や心情が生々しく伝わってくるのです。果たしてここで描かれる動機が真実かどうか?はわかりませんが「きっとそうだろう」と思える説得力のあるものでした。主人公はじめ主要な演者さん全ての演技が素晴らしくより濃厚な仕上がりとなっています。濃厚=やるせなさが半端ない・・・ってことです。
描かれるニトラムの日常世界はきっと今の時代のどこかに存在する世界なんだろうと思います。居場所がない、受け入れてもらえない、受け止めてくれるところがない、自分を認めてもらえない、そんな現実。自分でなんとかできることと、どうにもできないことはあります。そんな時に人は光が見えればその光がどんなものであろうとすがってしまうのではないのでしょうか?それこそが自分が求めていたものだと勘違いしてしまうのではないでしょうか?
そうしてしまうのは社会なのか?家族なのか?環境なのか?本作は銃規制促進または銃社会への警鐘映画のようですがそんな単純な社会の課題だけではないような気がします。決してそれだけでこの惨劇が起きてしまったとは思えないのです。1996年、あの頃から社会はさまざまな境遇の人にどれほど寛容になれているのだろうか?と考えてしまいます。
演者さんたちが皆素晴らしいです。主演はもちろんですが、エシー・デイヴィスよかったなぁ。ただ、苦言があるとするならば、ニトラムの病が全ての起因に見えてしまうような感じがちょっとなぁってところです。「それでなければ・・・」って思ってしまう展開が目に付くのです。病があるから・・・ということよりケアしきれない環境という見せ方できなかったかなぁ?「その病=悪」って見え方がちょっと雑音になっちゃいました。銃規制だけでなく、そちらの環境についても踏み込んでほしかったかな。