劇場公開日 2022年4月22日

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「映画的聖地がインスピレーションをもたらすとき」ベルイマン島にて 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0映画的聖地がインスピレーションをもたらすとき

2022年4月26日
PCから投稿

巨匠イングマール・ベルイマンの作品が好きな人にとって、フォーレ島はまさに聖地に等しい場所。その草木や吹き抜ける強風、打ち寄せる波を、映像を通じてひしひしと感じられるという点では、本作は非常に貴重で、なおかつ画期的な一作だ。そして、主人公”クリス”はおそらく本作の監督ミア・ハンセン=ラブの投影でもあるのだろう。ベルイマンが愛したこの地にインスピレーションを得ながら脚本執筆に没頭するクリスの姿には、映画づくりにおいて着想が降りてくる瞬間とじっくりと向き合う誠実さがみて取れる。物語において全く魔法的な場面は描かれないが、その点、作り手の意識が徐々に研ぎ澄まされていく様は非常にスピリチュアル。己の分身ともいうべき存在にあらゆる感情を吹き込んで”劇中劇”が形作られていく本作の構造もまた穏やかなれどスリリングで興味深いものがあった。観賞後はきっと多くの人が無性にベルイマンの映画を観たくなることだろう。

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牛津厚信