「センセーショナルな題材を突き付けて、ヴァーホーヴェンは常に問う」ベネデッタ 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
センセーショナルな題材を突き付けて、ヴァーホーヴェンは常に問う
現在世界で最も刺激的な映画監督、ポール・ヴァーホーヴェン。
『ロボコップ』のバイオレンス描写、『トータル・リコール』のインパクト近未来描写、『氷の微笑』のエロス描写、『スターシップ・トゥルーパーズ』の戦争揶揄…。ハリウッド大作でも自分のスタンスを貫く。
『ショーガール』『インビジブル』がコケ、母国オランダへ。戻ってからは益々才気を爆発。
『ブラックブック』『エル/ELLE』…。本作も期待通りのセンセーショナル。
17世紀のイタリアに実在した修道女、ベネデッタ・カルリーニ。
史上初めてレズビアンとして裁判に。
起こした奇跡の数々は本当か、狂言か。
数奇に満ちたベネデッタの運命と、翻弄された周囲の人間関係…。
トレードマークのバイオレンスとエロスは勿論、宗教や人間の姿を赤裸々なまでに突き付ける。
起こしたという奇跡は真に信じ難い。
幼少時に聖母マリアと対話。
修道女になってからはイエスの幻影を見る。
やがて彼女の身体に聖痕が…。
私はイエスの花嫁になった。
奇行か妄言かと思う。実際、真意を疑う者も。
が、彼女の奇跡を目の当たりにしたほとんどが信じる。
嘘か真か。マリアとの対話やイエスの幻影など幾らでも盛れる。
聖痕だって…。ある疑惑も…。
疑わしきはあるが、その真意を暴く作品ではない。
ベネデッタが幻影の中でイエスと対するシーンからもそう。
彼女の信仰心は真なのだ。
ある時修道院に、父親から虐待を受ける少女バルトロメアがやって来る。
奔放で小悪魔的な魅力のバルトロメア。
突然、キスをする。
行為を見せたのはバルトロメア。戸惑うベネデッタ。が、拒否したりはせず。
何がきっかけだったのか。何に惹かれたのか。理由などを超えた何かか。
聖痕で安静のベネデッタを看病するバルトロメア。愛撫が艶かしい。
欲情が爆発。身体を重ね、求め合う。
時にはイエス像を“道具”にして。
インモラルな秘密の関係。
数々の奇跡や聖痕で権力を握るベネデッタ。
が、この時代は圧倒的な男上位社会。宗教絡んだ権力握った女性は邪魔な存在でしかない。排しようとする。
同性愛の疑い。まずバルトロメアを拷問。口を割らせ、ベネデッタを裁く。ほとんど一方的に。火あぶりの刑。
横暴振るう教皇。こんな時代だから…いや、今と同じだ。同性愛や性差別を助長する老害権力者そのものだ。
激しい濡れ場と熱演見せたヴィルジニー・エフィラとダフネ・パタキア。エフィラは凄みを効かせたシーンに圧倒された。
シャーロット・ランプリングの存在感も光る。
母国に戻ってから本領発揮し続けるヴァーホーヴェンには驚きだ。
エロスもバイオレンスも一切妥協する事なく。
題材が題材だけに物議は必至。その筋からは抗議され、上映禁止の国も。
過激ではあるが、その中に深淵なテーマを問う。
宗教への疑念と信仰。
彗星におののき、教皇が持ち込んだあるものに人々はパニックに。
何かにすがる。何かを忌み嫌う。人は弱いのか、愚かなのか、哀れなのか。
それでも人に救いの手を。
何を信じるか。宗教か、愛か、自分か。
とてもとてもハリウッドで『ショーガール』や『インビジブル』を撮った監督とは思えない。
ただの変態監督ではなく、ヴァーホーヴェンは非常に真摯な監督なのかもしれない。