「シン・ジーザス」ベネデッタ ipxqiさんの映画レビュー(感想・評価)
シン・ジーザス
早稲田松竹の「ダークグラス」「アラビアンナイト」そして「ベネデッタ」という、ベテラン監督の最新作まとめて一気に鑑賞特集へ。
告白①
無神論者バーホーヴェンが実在の修道女をベースに作った問題作(じゃないことがあるのか?)とくればさぞかし俗悪、いちいち教会をおちょくるような内容なんだろうなぁ。長いしピンと来なそうだけどとりあえず観ておくか。
告白②
高橋ヨシキ「悪魔が憐む歌」かその続編に、バーホーヴェン本人へのインタビューがあり、一時イエスの実像に迫る研究会に参加しており、イエスの映画はライフワークだという話が出ていました。
最初は①のつもりで普通にいつものバーホーヴェン映画として(マリア像の使い方にウケたりして)たのしく見ていたのですが、後半になるにつれ、なんかこの話、知ってる…?となり、思い出したのは②、これがイエス・キリストの軌跡を辿るストーリーなのでは、と思い至りました。
私は昔、学校(プロテスタント)で聖書の福音書を読まされました。
私の思うイエスは基本的にパンクな反逆者です。神の声に従い、既存の宗教(ユダヤ教)の硬直化した権威を否定し、数々の奇跡を起こしじょじょに人々の支持を集めるが、最終的に権力者の手で処刑され、その後復活する。
誰さんにそっくりじゃあないですか。。
礼拝で聖書を読んでいた頃、果たして今の時代にイエスが現れたら、信者の人はイエスに反発したパリサイ人のようにではなく、素直に彼を神の子と認めることができるんだろうか?などと不遜なことを思っていました。
皆、日々のことに精一杯で、理不尽に目をつぶって暮らしているのに、それをいきなり神の名のもとに正論でNOを突きつければ、いつの時代でも疎まれたり頭がおかしいと排除されるに決まってます。
でも、聖書の中のイエスはまさにそんなキャラクター。
だからこの映画は、バーホーヴェンなりのナザレのイエスの研究成果なんではないでしょうか?
神の声を聴いたり、数々の奇跡を起こすヒロインの信仰が本気なのか、方便なのかは判然としませんが、もし方便だとしても、非常にクレバーで傑出したカリスマであることは間違いありません。
たぶんバーホーヴェンはキリストをそのような人物だったと結論づけ、実際に劇映画として提示して見せたのではないかと思うわけです。
だとすれば、バーホーヴェン作品の中では比較的まとまった、理解しやすい部類に入るのではないでしょうか。
ただ、そうはいってもクライマックスの展開はあまりに胸熱で、どストレートな映画的感動を味わうことができました。
画面も脚本も、80代の監督であることを微塵も感じさせない充実ぶりで、さらにパンデミックの記憶も生々しい時期というタイミングの妙が、劇中の伝染病エピソードをより鮮明に感じさせます。
そんな中、神を信じていなかったあの人の最後にとった行動は、ハリウッド伝統のキリスト的振る舞いでありながら、現代人である観客にとっても、たいへん共感できる合理的態度だったのではないでしょうか。
すごいやバーホーヴェン。
追記。
映画ブラックホールのベネデッタ回を見たら、柳下毅一郎さんがバーホーヴェンが上梓した「ナザレのイエス」に言及されていました。
その内容は、まずは処女懐胎から疑ってかかり、キリスト教社会のタブーにど正面から挑んでいるようす。きっと大きなインパクトを及ぼしたことでしょう。みたかったなぁ。