「監督の独自の感性によるクセ強めの映画」ベネデッタ スクラさんの映画レビュー(感想・評価)
監督の独自の感性によるクセ強めの映画
17世紀イタリアに実在したとして裁判記録に残る修道女・ベネデッタ、
その記録に着想を得て、教会と権力の結びつき、禁断の愛を芸術的に描く。
ベネデッタは神の嫁になったとして、数々の奇跡を起こす。
その奇跡が欺瞞か神の御業かどうかは、彼女自身にしか分からない。
面白いことに彼女の奇跡を信じる者はたいてい権力と結びついてなく、
信じない者には権力との繋がりがある。ここには監督なりの教会に対する皮肉が込められているのかなと感じる。
ベネデッタの奇跡が白か黒かはっきりさせないところにも監督のこだわりを感じた。
彗星の到来、黒死病の流行、彼女のいる街だけ黒死病が流行っていないこと、これらが彼女の実在した時期に起こったのは全くの偶然である。
しかし、人は偶然の一致に必然性を求めてしまう。
それゆえに彗星の到来により黒死病が流行しているが、ベネデッタの奇跡により彼女の街だけ神から守られている、
と本来は因果関係の無いものを関連させ、彼女の奇跡をより確固たるものに変えてしまうのだ。
21世紀を生きる私たちから見れば、彗星の到来は約75年の周期があり、それが黒死病の流行と合致したのは単なる偶然である。
そして、ベネデッタのいる街だけ黒死病が流行っていないのも、偶然で病原体が街に入り込まない状況が続いていただけだと判断できる。
さて、この偶然を「偶然ではない」と証明することは可能だろうか、残念ながら不可能である。
私たちがそれを観測できないだけで、実際にはこれらの事実に神が関わっているかもしれない。神が関わっていない事実を立証するのは実は困難なのだ。
それゆえに信じる者にとっては、これらの事実がベネデッタの奇跡となるわけだ。
信じる者には神は存在し、信じない者には存在しない。あえて白黒つけずに神を取り巻く、私たち人間の様々な立場を描く監督の表現に惚れた。
「禁断の愛」部分にはほぼコメント無しで…
こういうの描くの好きな人いるよねー。誰かと一緒に観に行くと気まずいよねー。とだけ言っておきます。