「最初にカフェに入ってきた女」ストーリー・オブ・マイ・ワイフ 琥珀糖さんの映画レビュー(感想・評価)
最初にカフェに入ってきた女
男は人生の賭けをした。
カフェのドアを開けて最初に入ってきた女性と結婚すると決めたのだ。
全財産を注ぎ込むような博打をする船乗り。
ヤコブは中年の船長。
1920年代には船長は乗る船の大きさにもよるけれど、
ヤコブは、地位も金もある男性だった。
初対面のヤコブ(ハイス・ナバー)に結婚を申し込まれた
リジー(レア・セドゥ)。
驚かない。
まったく眉ひとつ上げない。
仕事を聞き、「いつ?」と聞き「一週間は必要」と答える。
(だが、最初から男の影が散らつく女)
ハンガリーの67歳の女性監督イルディコー・エニェディ。
彼女の「心と体と」はエロティズムと、繊細で風変わりな女性を描く
ユニークな映画でした。
本作の原作はハンガリーのミラン・フスト。
ヤコブとリジーの最初のKissは掛け鏡に写るという
凝った映像美。
レア・セドゥは露出も最小限。
それでもリジー(レア・セドゥ)にはエロティックで、
男を虜にする色気と
「秘密と嘘」をない混ぜた破壊的な魅力で溢れる、
男を虜にする運命の女。
男は女に翻弄されズタズタに心を挫かれる。
ヤコブが航海から帰り、お土産の香水を渡します。
やんわりと喜んだリジー。
2度目も香水を買って帰ると、
「香水を変えたの・・・その香りには飽きたわ・・・」
と、一瞥するだけ。
(ヤコブ可哀想!!)
女心も操縦法も知らない男。
対して、男遊びに慣れた女。
美術と照明と鏡を使った撮影が素晴らしく、
1920年代のマルタ島やパリの社交会を再現した映像は
格調高く、大型船、灯台、埠頭、リジーの帽子、洋服、
部屋のインテリア、
どれもこれも垂涎ものでした。
殊に音楽が秀逸で、
ダンスホールの楽団が演奏するタンゴには、
バンドネオンの哀愁ある響き。
ヤコブとリジーが行くピアノコンサートで、
演奏される印象派のピアノ曲。
ヤコブの熱唱も素朴で心地いい。
この映画、監督が言うには、
小さな箱に入った贈り物を貰った。
けれど頑丈に梱包されて開きません。
ハサミでこじ開けても開かない。
遂には、人は箱をハンマーで叩き壊してしまう。
(そんな含みがあるそうです)
ヤコブの財産の株券を盗んで逃避行に出たリジーとデダン。
ヤコブはリジーに書かせます。
「愛人と協力して株券を盗みました」
「無様で恥ずべき人生です」
その紙面にヤコブはサインをさせます。
最後通達ですね。
(プレゼントの箱は叩き壊されました)
愛を育てるのがあまりに下手なヤコフとリジー。
このシーンはとてもインパクトが有るのだけれど、
なかった方が、リジーの神秘性が残ったのにと、
少し残念です。
ヤコブの歌う
「潮からい海」
バリトンに味がありました。
この歌で締めくくったら、また別のラストに・・・
レア・セドゥ、本当にはヤコブを一番愛していたなら、
(ちゃんと、そう、言いなよ!!)
だけれど女は、
仄めかし、
謎めき、
嘘つきで、
秘密、
レア・セドゥは憎めない可憐さと儚さも感じさせて、
ヤコブが恋焦がれたのも、道理。
後悔も何処かでほの甘い味なのでした。
こんにちは。確かにスクリーンで観たい映画ですね。情感的な映像だけに、ラストはもう少しリアルに描いてほしかったと思います。でも、映画らしい映画だと思います。