「独裁末期の韓国。自宅軟禁された民主派政党党首を隣宅から監視する情報...」偽りの隣人 ある諜報員の告白 LSさんの映画レビュー(感想・評価)
独裁末期の韓国。自宅軟禁された民主派政党党首を隣宅から監視する情報...
独裁末期の韓国。自宅軟禁された民主派政党党首を隣宅から監視する情報機関員が、盗聴で一家の暮らしに触れる中で次第に心情を変えていく。
ポスタービジュアルより序盤はかなりコミカルなタッチだったが、機関が容赦なく政敵に手をかけ始める頃からシリアス度が増す。とはいえ全体には軽めで前向きな娯楽作にまとまっている。
最近だと「KCIA」、過去に「大統領の理髪師」も観たが、(本作はフィクションと銘打ってはいるが)苛烈な政治史の一面をリアリズムだけでなく笑いを含め多様なアプローチで描き、不謹慎あるいは偏向と言われずに公開できるのには同国映画界の奥深さを感じる。
【追記・ネタバレに変更】とはいえ後味の悪さもある。
党首の娘は、党首を偽装交通事故で殺害する作戦で誤って殺される。主人公は事故の瞬間を目撃、最期にも立ち会い、父を守ってと遺言される。
抑圧する側にいた人間が真実に触れて改心し行動するのは王道で、主人公にとってはこれが組織に反逆するきっかけとなっただろう(より直接的には自身の家族に対する機関からの脅迫だろうが)。
だが、作戦には主人公自身も党首殺害の目的を知りつつ尾行役で参加していた。決行を止める機会を探っていたかにも見えたが、党首が車を乗り換えた際には車のナンバーを報告して、娘の車の方を追跡した。無線が不調で乗り換えが伝わらなかったが、受信されていれば成功していただろう。
自身が作戦に関与していたことや、先に機関が党首の親友議員を謀殺した際の反応の薄さと比べて、党首の娘の死への主人公の反応が唐突というか、それまで良心の呵責、葛藤があったようにはあまり見えなかった。それだけ自身の任務が引き起こした現実の死への衝撃が大きかったのだろうと想像はするし、そこまで内面を描く作品ではない(あるいは自分が読み取れていない)と思うが、結末も個人的救済に留まっているようで、すっきりしなさは残る。(実際の民主化運動で失われた命を想起して、私自身が不謹慎と感じているのかもしれない)