「誰にも迷惑をかけずに生きられますか?」梅切らぬバカ movie mammaさんの映画レビュー(感想・評価)
誰にも迷惑をかけずに生きられますか?
丁寧に手をかけて育てられた自閉症の忠さん50歳。
塚地武雅が演じているので愛嬌たっぷり。
現実世界では、爪を噛んだ手のまま電車内の手すりを触っていたりなどをよく見るが、忠さんもストレスがあると爪を噛むものの、作中では触っても自身の折り畳み傘程度。時間通りに自律した行動を丁寧に行うし、決まりを守れる性格。
馬が好きで、馬を驚かせてしまったりするが、危害を与えようとしたり身体の大きさを考えずに手が出てしまったりの、怖い印象は受けない。
ただし、今周りがどんな状況どんな気持ちかを推測することは難しい。
母親は70代。忠さんの先行きの人生をすごく案じつつ、女手ひとつで何十年も一生懸命忠さんを育ててきたので、いざ忠さんがいなくなると気力がなくなってしまう。
グループホームに忠さんを入れる事を決意した時、特性の異なる入居者どうしの空気の読み合いが難しいから、忠さんは煽りをくってお風呂上がりのカルピスを飲み損い、予定通り飲めなかったのでホームの外にパジャマのまま外出して自動販売機でカルピスを購入し立ち飲み。そこで出会ったお隣の息子少年、草太の誘いで一緒に厩舎の馬を見に行き、馬を連れ出すトラブルを起こしてしまう。
軽い気持ちでグループホーム脱走中の忠さんに声を掛けた草太だったが、騒動はグループホーム運営反対の動きとなり、忠さんはグループホームを退去する流れとなり、再び自宅に戻ってくる。
社会的な部分に影響がある特性の方々への理解や、近隣住民や社会との調和について、考えさせられる。
個人的には、人によるなぁと。
状況を説明する力や、空気を読む力が不足して誤解やトラブルを招きやすくても、その行動の動機によって受け入れやすい、受け入れにくいは異なる。
特に、性的な動機が絡んでいる方だと、正直怖い。
登下校中に待ち伏せされていた期間が過去にあり、知的な原因の場合警察も動けないとのことで、その方には怖い思いをさせられた。本人に悪気がないのはわかっているが、理性がきかず身体が大きいと、許容頂くのが難しい場面もあると思う。
ただ、そういった処理などのお世話も行う親御さんの日々の努力や心配は、作中には出てこないが、胸中思うと頭が下がる。
一方、可愛いなぁ優しいなぁ、お互い難しいことも工夫して、人並み程度に克服しながら頑張ろうね、と特に違和感を抱かず関われる方々もいる。
特性があっても、聖人君子ではないので、人間として得意不得意もあれば性格も色々。
それにより、家族以外の人々に、社会に、受け入れて貰えるかや居場所があるかも異なる。
だからこそ、育て方が大切なので、タイトルが響いてくる。桜と梅では必要な対処が異なる。性格や特性や習性をよく理解して、手をかけて育てないといけないのは、どんな人間にも、馬にも、動物にも、共通する。そこが欠如したらバカ。安心な町を育てないのと同じ。
そしてできれば、他人やその大切な人や動物や物にも、同じ気持ちを向けたいね、と思う作品。
作中で、自分の馬は大切にするのに他所にはキツくあたる人、相手を許容はできないが自分のお行儀はめちゃくちゃな人、とにかく優しさが際立つが落ち着いた行動が苦手な人、自分の息子は棚にあげ他人の息子に冷たい目を向ける人、など客観的に見ると「お互いさま」精神に欠くが、現実にはよくいる人々が出てくる。
そういった人々=社会の目に、フェアじゃないなーと心を傷める機会が多いであろう親御さんがただからこそ、作中のように占いはできずとも人を見る目が真を突いていることって大いにしてあるだろうなぁと加賀まりこ演じる母親像を見て思った。
役所が他人事感覚なのもリアル。
当事者同士の「お互いさま」が、持たれつがなく持ちつばかりになる時、排除が起こるのかもしれないが。
塚地武雅は風貌がまるでドラえもんが人間になったみたい。