「桜切る馬鹿、梅切らぬ馬鹿」梅切らぬバカ 野川新栄さんの映画レビュー(感想・評価)
桜切る馬鹿、梅切らぬ馬鹿
2021年映画館鑑賞100作品目
11月28日(日)イオンシネマ石巻
1000円で鑑賞
和島香太郎監督作品初鑑賞
加賀まりこ主演映画という珍しさにも釣られて映画館で鑑賞
往年の大女優でありながら意外にも主演は1967年『濡れた逢引き』以来54年ぶり
同じ歳くらいで今でも主演作が殆どの吉永小百合とは対照的
実質的には塚地武雅とのW主演だが加賀まりこに花を持たせたのか彼女の単独主演という形になっている
彼の主演作なら2013年公開の『げんげ』以来だった
ほのぼのとしたヒューマンコメディー
山田親子の物語
母珠子は高齢の占い師
中年で自閉症の息子チューさんこと忠男と古い一軒家に2人暮らし
散髪どころか髭剃りも爪切りも母親にやってもらうチューさん
庭から梅の木がこれでもかとばかり枝を伸ばし通りの妨げになっている
チューさんが幼少の頃に家を出て行って戻ってこない父親が植えた木で彼からすれば父親代わりのようなもの
枝を切ろうとすれば奇声を上げて抗議するのではみ出た枝はそのまま伸ばし放題
起床から時間通り分刻みのスケジュールを押し通す頑固で几帳面な性格のチューさん
住宅地で何故か乗馬クラブを営む今井家で飼っている黒いポニーがお気に入り
自閉症などそういった人たちが働く職場でケーキを入れるような小さな箱を組み立てる作業をしている勤勉な労働者
チューさんが誕生日にケーキの火を消す直後にぎっくり腰になったことがきっかけで高齢ということあり珠子はギブアップ宣言
チューさんのような大人の男性たちが共同生活をしている近所のグループホーム『さくらの家』に預けることに
花嫁をもらうには母と二人暮らしは良くないと説得されたせいか意外にも引っ越すことに同意したチューさん
転居してしばらくたった日の夜に湯上がりの一杯を飲み損ねたチューさんは外出し自販機で牛乳を購入
そこに実家の隣に引っ越したばかりでチューさんと仲良くなった里村家の小学生長男に誘われて夜間の乗馬クラブに侵入
ポニーを馬屋から出して敷地の中を連れて歩いていたが乗馬クラブに見つかりポニーは脱走
長男は逃走しチューさんは捕まってしまう
夜に散歩でもしていたのか町内会の会長(広岡由里子)はポニーに驚き転倒し怪我をしてしまう騒ぎに
これを機に不満が溜まっていた近隣住民はグループホームへ大々的に抗議活動を始める
そんなわけでチューさんは早くも実家に戻ることになる
山田家は謝罪に来た里村親子3人を迎えお帰りパーティーを開催する
そんな話
渡辺いっけい演じる里村家のパパ茂が枝に当たるシーンが地味だけどおかしい
わりと人にあまり好かれないタイプを演じることが多い渡辺いっけいは私事ながら10歳近く離れた2番目の妹にもたいへん嫌われているのでそのせいか感慨深い
そのほか笑えるところ多し
年配な方々がちょくちょく笑っていたのでネットに蔓延る気難しい評論家でなければわりと楽しめるんじゃないか
かまいませんの件でチューさんにおかえりと声をかける珠子のシーンでホロッとさせる名演技の加賀まりこ
作品が77分と短いし足りない部分は各々が想像すれば宜しい
グループホームの経営者役に林家正蔵
グループホームでお世話をしている中性的な介護士役に北山雅康
グループホームに住んでいる障害者の1人に徳井優
グループホームの隣に住んでいる住人役に鶴田忍
占い師珠子に相談にやってきた客の1人に真魚
山田家からはみ出した梅の枝から落ちた梅を台所ですり潰す最中に梅を拾ってきた里村家長男とのやりとりするときの珠子の喋り方が好き
台本通りにやらないと激怒する倉本聰先生に台詞変更を注文するような大女優加賀まりこ主演作を堪能できて良かった
チューさんがビールを飲むシーンは『しあわせの黄色いハンカチ』の高倉健以来の細かい芝居の技巧派塚地武雅
邦画好きとしてはわりと楽しめた佳作
短すぎて物足りない感じもあることはあるがそれでも腹八分
映画に社会性とか高尚なものを求める理屈っぽい左翼にとっては不満タラタラだろうけどなんと言われようが自分は合格点をあげたい
あと塚地武雅の武雅をむがと読むことを初めて知った