「小ネタだけは楽しめる映画」機動戦士ガンダムSEED FREEDOM 武論尊さんの映画レビュー(感想・評価)
小ネタだけは楽しめる映画
既存キャラの救済としては文句なしの出来ではあるが、それ以上でも以下でもない
18年間本当はあーだこーだと二次創作や界隈で描写・議論されていた考察をそのまま当てはめて、どう?これで文句ないでしょ?という作り
メインであるキラ・アスラン・シンに対して強い思い入れがあり心に温めてきたものがある人々にとってはそれで良いのかもしれない
しかしSEEDシリーズの魅力の一つであった含蓄のある敵役やそもそも根幹のテーマである遺伝子による対立・技術による人の業といった重く暗い、しかし厚みがあり世界の広がりを感じさせる部分に関してはかなり矮小化されてしまった感がある
ブラックナイツに関しては尺不足やそもそもそういう設定というのもあるのだろうが、本当にただ顔と能力だけが恵まれた陰険なマザコンにしか思えなかった
例えばSEED前半のイザークやディアッカと後半のブーステッドマンダメな部分だけを寄せ集めたような存在
コミカルな面もなくはないが、正直アホの子でしかない
そういう設定ではあるんだろうが、これではね…
ブラックナイツだけがそうならまだ良い
だが肝心のオルフェも生まれによる悲劇性を感じられなくもないが、ラウやレイ、デュランダル、或いはアズラエルや砂漠でのバルトフェルドのような見識や深みがまったくないので魅力が全くない
こんなイケメンのダメ男出せば腐女子は喜ぶんでしょ?て思惑さえ感じる
更にそれを操るアウラは全く優秀さを感じない、見た目も相まって幼稚なヘイトしか感じない短絡さで、なんでこんなやつに更に優秀なオルフェやブラックナイツが付き従っているのが全く理解できない
もう少し、ロード・ジブリールでさえ少しは魅力のあったものだが…
深みのない敵が故にSEEDやDESTINYで感じられた作品世界そのものの業の深さを感じられず、それをド派手な核やレクイエムぶっ放しでどうにかカバーしようとしたんだろうが…
結局はキラ・ラクス・オルフェの三角関係によるド派手な痴話喧嘩以上のものを感じられなかった
劇場版ということで逆襲のシャアのように世界の命運をかけたと見せつつ一人の女を巡る男同士の葛藤を描きたかったのだろうが、曲がりなりにも信念がありアムロさえ絡まなければ基本的には大人に振る舞い決して敵を侮らず、TVシリーズでの経験や絶望を踏まえた上で魅力ある敵・ライバルとなったシャアとは異なりすべてが正反対のオルフェでは観ていてキツイものを感じる
また、優れた自分が世界を統べるべきというのはダブルオーのボスであるリボンズ・アルマークの要素も感じるが、これもリボンズ自身、主人公が最初に神と崇めたOガンダムの搭乗者であり格上であったこと、随所に描写された優秀さやそれ故のままならぬ絶望やその果ての選民思想という積み上げがあった上で刹那との魅力あるベストバウトとなったのに対してやはりそういう描写が薄いオルフェでは下位互換にしか感じられない
ラクスと同乗して最終決戦に向かうキラも、これはGガンダムのドモンとレインを想起させるが、ドモンとレインは丁寧にTVシリーズでお互いのすれ違いや相克を経てお互いの愛を確かめあった過程を丁寧に描いたゆえに燃える最終決戦となったのであって、TVシリーズではラクスの受け売りで一切関係に波風立つこともなかったキラで同じようなことをやっても予定調和にしか感じられない
同じことをやるなら若干BL臭くはなるがDESTINYで散々最後の最後までぶつかり合わせたアスランとシンで共闘させたほうが盛り上がっただろう
色んなガンダムシリーズのオマージュを詰め込んでも元が空っぽのために何をやっても劣化したシーンでしかない
オタク向けに「ああこれはあのシリーズのあの要素だな〜」って探させてそれで満足させるだけ
SEEDだけでなく平成ガンダムを意識した演出も多分に含まれ、初代、Z、ZZも彷彿させるシーンもありそれは確かに楽しめるものではあるがやはり根幹の部分のやせ細りはどうしても拭えずなんとか賑やかしに装飾しただけ
映画とは言うものの宝探しさせられている気分でありストーリを咀嚼する上でここまで詰め込まれるとノイズに感じた
シリーズ、特にメイン三人を慕ってきたファンへのご褒美作品ではあるし、最高潮となり迷いのなくなった彼らを観ることができたのは幸せなことである
DESTINYの最後でキラがデュランダルを撃たなかったシーンは脚本家に対してキラをとにかく綺麗に書きたいだけだと不満の声も多かったがそれを逆手にとって、撃てなかったことでキラが覚悟を決めきることができず迷わせ続ける呪いとなった場面として解釈して物語を広げようとしたことも個人的にはとても素晴らしく感じた
キラのダメな部分も描かれており、人間性を復活させたのはDESTINYでの仙人というか正論厨みたいだったキラに対する不満の溜飲を否応なく下げさせるものではある
とはいえそれ以上にファウンデーションの連中はダメで無能な部分ばかり目立つ描かれ方である
敵をひたすら落とすのは三流作品のやり方である
まあデスティニープランの負の側面を描く上で仕方がないとは言えもっと描きようがあったのではないだろうか
一つ一つの要素は楽しめる場面も多いものの、一本の映画としては退屈で破綻仕掛けている駄作に感じた
全く同じ気持ちです。
X見てると絶賛する意見しかなく、自分の感じ方はおかしいのか、自分が見て感じたSEEDは間違いだったのかと疑って非常に辛かったですが、ここのレビューだけが救いです。
SEEDの世界観が好きだったファンは監督にとってお客さんではないのですかね…