「まさに入門編、マイルドでエロい滑稽な人間模様」欲しがり奈々ちゃん ひとくち、ちょうだい たいよーさんさんの映画レビュー(感想・評価)
まさに入門編、マイルドでエロい滑稽な人間模様
初ピンクVシネ。面白かった!エロスの中にある人間の滑稽な姿が顔を覗かせる。その感じが堪らない。
『アルプススタンドのはしの方』が大好きな私にとって、すっかり見逃せなくなった城定秀夫監督。そりゃ過去作も…と言いたいところだが…多い!それもそのはずで、100本以上取っているいぶし銀のピンク映画職人だからだ。ということで、脚本に『なっちゃんはまだ新宿』の首藤凛を迎えた今作を手ほどき代わりに観てみた。ちなみに、今月公開の『ひらいて』の予習も兼ねている。笑
それが何とも面白い。確かに濡れ場も多く、ピンク映画らしさを存分に醸し出しているのだが、そこに滲む人間味が何とも絶妙。首藤凛によるギミックの複合的な組み方が何より引き立っている。そのレシピをもらった城定秀夫はきっと、怒涛の3日撮りで終わらせたのだろう。低予算っぽい端々のポイントも可愛く思えてくる。また、カメラワークも熟練のもので、濡れ場でも映らないようにシャツを積んでみたり、テーブルを使ってみたり…創意工夫も随所にあった。そこも普通に感心してしまった。マイルドな作風と謳われているだけあり、癖なく観やすかった。
そして、群を抜いて他とは違うと感じさせるのは、漂う人間味である。それがピンク映画の良さなんだろうと思った。バイト先の店長は優しいけど不倫を拒まない(理由はあるが笑)し、店員の藤村の品出し裁きは半端じゃない。さらに、元カレも走る走る!みんな強烈で伏線回収も上手い。だからか、70分しか観てないのにどのキャラにだって愛着が湧く。その中でも本作の主演である架乃ゆらは、本業がAV女優なだけあり、濡れ場の空気感がまるで違う。上手く作品の幹を太くしつつ、キャッチーでズレたキャラクターを演じている。しかも、それでいながら意外と普段は声が低いというギャップも何か良い。
一見さんお断りでハレンチなモノばかりなイメージから煙たがられるピンク映画。しかし、男性だけという感じではなく、女性も楽しめるようなユーモアとアイデンティティが詰まっていると感じた。それは首藤凛による女性的な視点も入っているのかもしれないが、かなり優しい仕上がりだ。まさに入門編。良い体験をした。