「新しい年の始まりには、胸が高鳴り、元気をもらえる作品がふさわしいと思います。」ドリーム・ホース 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
新しい年の始まりには、胸が高鳴り、元気をもらえる作品がふさわしいと思います。
思索にふけったり、息をのんだり。そんな映画が好きですが、新しい年の始まりには、胸が高鳴り、元気をもらえる作品がふさわしいと思います。
その点で、自信をもっておすすめできるのが本作です。
タイトルを見た瞬間、一獲千金を狙う人たちの物語に違いないと思った自分を恥じたくなる、夢のような物語です。でも実話というから驚かされます。実在の馬「ドリームアライアンス」を題材にしています。
舞台は英国・ウェールズの小さな村。無気力な夫と暮らし、単調な日々にうんざりしていた主婦のジャネット・ヴォークス(通称ジャン=トニ・コレット)はバーテンダーとして働いていましたが、それだけでは十分に稼ぐことができず、空き時間にスーパーでレジ打ちもしていました。
そんな生活にうんざりしていたある日、馬主経験があるという税理士のハワード(ダミアン・ルイス)の話を聞いて思いついたのが、競走馬を育てて大会で優勝するということ。それを実行に移すだけの資金もノウハウもなかったジャンでしたが、夫のブライアン(オーウェン・ティール)や地元の人たち20人から少額の出資を募り、馬主組合を作ることで解決します。ハワードの協力を得て、ジャンはレースでは未勝利だが血統は良い牝馬を安価で入手することに成功。その馬を種付けして生まれた子馬に「ドリームアライアンス(夢の同盟)」と名付けたのです。
出資してくれた人でさえも「これでエリート競走馬に太刀打ちできるのか」と不安視していていましたが、有名な調教師に預け、地道なトレーニングの末、ドリームアライアンスは大方の予想を覆してレースで快走。組合員は愛馬の雄姿を追うことに喜びと生きがいを感じていくのでした。
ある大きなレースに出場したドリームアライアンスは、首位を独走するものの、途中の障害物を越える時に、足を骨折。ジャンたちは、安楽死か高額の治療費か、選択を迫られます。果たして、みんなの夢はここで潰えるのか、それともドリームアライアンスは復活するのか、感動のラストに向かって、ストーリーにもラストスパートのムチが入ります。
レースの場面では勝利よりケガを心配する思いが痛いほど伝わり、感動はより大きなものとなりました。
実在の競馬場で撮られたレースシーンの迫力がすさまじいのです。近距離から密着撮影し、アップで捉えることで、馬の息遺いやコースを駆け抜ける足音が耳にも残りました。都合の良いレース展開にするためのごまかしは一切ありません。ドリームアライアンスが懸命に障害を乗り越える姿に、きっと感動を覚えるはずです。一途に走る馬の愛らしさも、この映画の魅力を支えています。
もちろん、ただの美談ではありません。愛馬の売却を他の馬主から高額で持ちかけられたとき、その是非を巡り組合員のいさかいがおこるさまや、各家庭のごたごたも描かれます。そんな登場人物たちの感情を丁寧にすくい取っているからこそ、組合の一員になったような気分になり、挫折の後に到来する終盤の感動が大きくなるわけです。
村の人たちと高揚感を共有しながら最後にはじんわりと心が温かくなる、夢と愛にあふれた作品です。
本作はウェールズ産というローカル色の豊かさも魅力です。美しさとわびしさが入り交じる自然や街並み、登場人物の愛すべき人間くささに魅了され、同地における競馬の伝統やステータスの高さも伝わってきます。村全体がドリームアライアンスでお祭り状態に盛り上がるさまは、ジャンが単なる金儲けのために競馬に手を出したのではなく、閉塞感漂う村全体に希望をもたらしたいという意図を雄弁に物語っていました。