パンケーキを毒見する : 映画評論・批評
2021年10月28日更新
2021年7月30日より新宿ピカデリーほかにてロードショー
「新聞記者」に続く新作ドキュメンタリーは、洒落と皮肉を散りばめた政治バラエティ
2019年の日本アカデミー賞を受賞した「新聞記者」の河村光庸プロデュース、制作会社テレビマンユニオンの内山雄人監督デビュー作。前首相・菅義偉と、いわゆるアベスガ体制の実態に迫ったドキュメンタリー。「新聞記者」「i 新聞記者ドキュメント」に続くトリロジー的な位置付けの注目作となっている。
序盤から見せ場がやって来る。菅前首相が、大学の就職課からの紹介で政治家の秘書となり、そこを振り出しに市会議員、衆議院議員、官房長官へと出世していくまでが、政治家の江田憲司、石破茂、朝日新聞の元記者などの証言によって再構築される。今よりもふっくらとして初々しい2回生議員時代の氏が、安倍元首相とのタッグによって支持基盤を強固にし、現在のような姿へと変貌していく様子が、それぞれの視点で生々しく語られる。
ご飯論法で知られる上西教授による国会答弁の解説も興味深い。共産党の小池氏や立憲・辻元氏との矛盾に満ちたやりとりや芯を食った野党議員ヤジの面白さ、他の議員の表情などが、上西教授のコメントが乗ると全く別の世界が現れハッとさせられる。
共産党の機関紙・赤旗の記者たちによる機密費の不正疑惑に迫る取材の過程は、リアルなスリルに溢れたシーンに仕上がった。しがらみがないから遠慮なく切り込める少数精鋭のチーム。それは許認可事業や広告主などによって硬直化が進む大手メディア、いわゆるマスゴミ問題への一つの回答にも見える。ただここには影響力を強めるネット言論への言及がなかったのは寂しいが、「新聞記者」に続く作品という位置付けだけに難しいところか。
監督自ら政治バラエティとジャンルづけしたからか、「極道の妻」風のイメージショット、「サウスパーク」風のアニメ、女性の甘えたようなナレーションなど、皮肉と笑いで難しくならないような工夫が散りばめられているが、これは若い人にどこまで通じるか、意見が分かれるところかもしれない。
今回、シネマ映画.comでの配信(10月28日~31日)では、時期的に衆院選直前ということもあり、内山監督、自身の政治的なスタンスを明確に表明し今回ナレーションを担当した古舘寛治、東京新聞の望月記者、政治アイドル・町田彩夏によるリモート対談を収めた特別映像も同時に公開される。こちらもまた現在の政局や選挙の行方など、映画では収まりきれなかった要素が熱く語られていて必見。菅政権が思いもかけぬ早期退陣に追い込まれ選挙直前の不透明な中、改めて今見ておきたい作品である。
(本田敬)