「百試千改」吟ずる者たち odeonzaさんの映画レビュー(感想・評価)
百試千改
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主人公明日香の実家は広島の酒造家、東京で夢破れ故郷に戻り病に倒れた父の意思を継ぎ新たな吟醸酒づくりに奮闘する、明日香を支えたのは吟醸酒の開祖とされる明治時代の地元の酒造家三浦仙三郎の回顧録、劇中でも明治時代の回想シーンが多くを占めています。
仙三郎は百試千改と試行錯誤を繰り返し懸命に酒造りを続けますが転機となったのは広島の酒が灘の酒に劣るのは硬水と軟水、水質の違いとの若い化学者の指摘でしたね。
ただ、劇中では説明されていませんでしたが当時仙三郎が悩んでいたのは酒の腐造、引き起こす原因は火落菌と呼ばれる腐造乳酸菌で発生を防ぐには、火入れと呼ばれる加熱処理が必要、火入れは日本酒を約60~65℃の温度で温め、酵母の働きを止め、火落菌などの菌を死滅させます。明治時代には杜氏は既に火入れを行っていたようですが不衛生な木樽では完全に殺菌することはできず酒造家を悩ませていたようです。本作の主題は低温熟成による香り豊かな吟醸酒の製造、タイトルの吟ずる者たちは表面的には杜氏たちのようですが酒造での麹菌、微生物が神のように存在し米の中で歌っているのだとも言っていました、慧眼ですね。
日本酒は黄麹菌の発酵ですからいわば化学反応、努力を重んじる精神主義は日本人の美徳とされて来ましたが科学知識の重要性が再認識されました。確かに稲作の始まった縄文時代から酒は造られてきた訳ですから、試行錯誤で進化してきた面も否めませんし酒造りの技術職人、杜氏の努力をテーマにした方が感動作になりますので、そちらに寄せた物語づくりは致し方ありませんね。そういう意味では生真面目に作られた酒造家物語でした。
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