「有村架純の演技の幅広さに驚かされる」前科者 といぼ:レビューが長い人さんの映画レビュー(感想・評価)
有村架純の演技の幅広さに驚かされる
評価が高かったので前々から気になってはいたのですが、ようやく鑑賞できました。
主演の有村架純さんは私の昨年のベスト映画『花束みたいな恋をした』でも主演していましたし、物語の中心人物である過去に殺人を犯した工藤誠を演じた森田剛さんは、私が日本のノワール映画で一番好きと言っても過言ではない『ヒメアノ~ル』でも殺人犯を演じていましたね。
好きな俳優さんが揃い踏みの映画ですので、非常に期待しての鑑賞です。
結論ですが、素晴らしかった!!
脇を固める俳優さんまでもが全員役にハマっていて素晴らしいですね。ストーリーも本当に素晴らしく、普段の生活では知ることができない「保護司」という役職について知ることができ、そして刑務所から出てきた前科者が社会に復帰することがいかに難しいかという社会問題にも切り込んだ内容になっており、ただ面白いだけじゃなくて勉強になるというインタレスティングな映画でしたね。
WOWOWで本作の前日譚にあたるドラマが上映されたそうですが、映画単体で綺麗に完結した内容になっていますので、ドラマ版を観ていない状態でも一つの映画作品として十分楽しめました。
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刑期を終えて釈放された前科者の社会復帰を支援する「保護司」として多忙な日々を送っていた阿川佳代(有村架純)。彼女の元に、殺人罪で懲役を受けていた工藤誠(森田剛)がやってくる。控え目で真面目な性格の工藤は保護期間中で全く問題を起こすことなく生活していたのだが、間もなく保護期間が終わるという時期になったある日、忽然と姿を消してしまうのだった。
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「保護司」という役職について、私は本作を鑑賞するまであまり知りませんでした。先日鑑賞した藤原竜也さんと松山ケンイチさんダブル主演の『ノイズ』で殺人犯を猪狩島に連れてきた男性が「保護司」として説明されていたので、名前だけは聞いたことがある状態です。
本作は、細かな描写が素晴らしいですね。例えば、阿川が出所直後の工藤に牛丼を作って食べさせるシーン。「ついさっき吉野家で牛丼食べたばっかりなのにまた牛丼出された」っていうギャグシーンになっているだけではなく、肉より玉ねぎの方が多い阿川の牛丼を見ると、「阿川は決して経済的に豊かなわけではないんだな」と伝わってきます。映画中盤で石橋静河さん演じるみどりが阿川の家ですき焼きを食べているシーンでも「貧乏で良い肉を食えないだろうからごちそうする」とみどりが阿川に言うシーンもありますので、それがよくわかります。
阿川と滝本(磯村勇斗)の対比も良かったですね。学生時代に、とある人物の死によって人生が変わってしまった二人。片や阿川は殺人犯の更生を手助けする保護司となり、滝本は「殺人犯は人間じゃない」と言い放つ程の強い憎悪を抱きながら警察官となる。全く対照的な二人のぶつかり合いから、「犯罪者の更生」という難しい社会問題についてキッチリと踏み込んだ内容になっているように感じました。
役者陣も全員素晴らしかったんですね。特に良かったのはやはり有村架純さんでしょうか。昨年の『花束みたいな恋をした』では「ありきたりで可愛い女子大生」を演じていたり、『るろうに剣心』では「ミステリアスな美女」を演じていました。そして本作では「真面目で飾り気のない女性」を演じています。
化粧や髪型や衣装による違いはあるでしょうが、それ以上に有村さんの演技によってそのキャラクターのイメージが固まっているような気がします。まるで別人のようなキャラクターの演じ分け。本当に素晴らしかった。
他にも、森田剛さんは言わずもがな素晴らしかったですし、殺人犯の実を演じた若葉竜也さんは『街の上で』で観た演技とは似ても似つない猟奇的な演技で、精神の不安定さや狂気性が伝わってきました。本当に、登場する役者さんが一人残らずキャラクターにピッタリでした。
ストーリーは面白いし、役者の演技は素晴らしいし、社会問題に切り込んだ内容になっているし、ラストの締めが個人的にめちゃくちゃ好きでした。文句を言うような部分が一切なくて、「減点方式で言ったら100点」という感じの映画ですね。
公開からかなり時間も経過してしまって、上映終了してしまった映画館も多いですが、本当に素晴らしい映画だったので是非多くの人に観ていただきたいですね。オススメです!