「Just The Way You Are」ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー VOLUME 3 Masatoさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5Just The Way You Are

2023年5月2日
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鑑賞方法:試写会

試写会にて

マイナーなチームから大人気のMCU映画へと駆け抜けたガーディアンズ・オブ・ギャラクシーの3作目にして最終作。予告編からも完結の匂いが漂うが、実際本編を見てみるといつも通りに言い争いしながらどんちゃん騒ぎしていく作品に。でも最後にはホロリと泣かせにきて、終わりを感じさせる展開に…まだ終わらないでと願い続けた。

今まで以上に激しく騒がしい上に、ハイエボリューショナリーのキャラがMCUの中でも群を抜いて非倫理的でダークであったので、かなり振り回されてとっ散らかっている印象だった。しかしながら、監督が「今作は『自分』の物語であり、宇宙ではなく自分自身を救っていく」と語っていた通りの物語となっており、ロケットの物語や敵の優生思想を軸としてチームが自分と向き合うこと、見つめ直すことにテーマを持っていき、そして思いがけない自己肯定へと繋がっていく。

完璧なものなんてない。上も下も存在しない。君は劣ってなんかいない。ザ・スースクと同じくどんな生き物にも別け隔てない愛を注いでいく優しさをハイエボリューショナリーによる優生思想の脅威から守ることで描いていく。サノスがマトモに見えてくるくらいに思想が怖い。結局優生思想とはいっても、並外れた知能を持つロケットは実験の失敗作であったことと自分よりも賢いという嫉妬からハイエボリューショナリーに下等生物とみなされ捨てられた。ここはロケットとナチスのホロコーストやT4作戦と重ね合わせていると思う。

生物のなにが劣っていて優れているなんかの線引きは至極曖昧でありそれを司る者の尺度で変わる碌でもない思想だ。ガーディアンズたちは除け者たちの集団だ。銀河を救うまでは常に蔑まれながら生きてきた。心のなかに潜在的に宿る暗い過去と劣った感情。それが攻撃性となって自他ともに素直になれずにいた。本作は優生思想の危険性ではなく、もっと抽象的な自分は劣ってなんかいないと思いたいがためにトラウマや弱さと向き合えない心を描いている。

君は劣ってなんかいない。優れてなんかもいない。いや、そんなことどうでもいいじゃないか。改造された下等生物のアライグマだろうが、君は君のままでいればいいんだ。だから素直でいてくれ。最後に"アライグマ(Lacoon)"を見つめる姿が非常に感動的。いつもアライグマではないと意地を張っていた彼の本当の受容が終わった。

ドラックスは父親であることを受け容れた。ガモーラを失くした失意で亡き彼女の幻影を追い続けていたクイルも今の彼女のありのままを肯定して道を違えていく。自分の中にある弱さに向き合った証拠だ。そして、彼もまた嫌悪していた自分のルーツを辿っていく。

自分の弱さを受け容れ、素直になることで相手にも素直になれる。それが人を愛し優しくなれることだと説く監督の卓越した優しさ。これまでのガーディアンズの旅路があったからこそ到達したであろう自己の物語にもなっていて説得力がある。一度キャンセルで路頭に迷ったガン監督だからこそ様々な自戒がこめられているのだろう。自分の過去や弱さを受け容れて愛を育み前に進む物語。監督らしい。他者と容易に比較できるようになって劣等感を溜め込みやすくなったSNS社会だからこそ突き刺さるものもある。

敵が思いの外ショボかったとか、最強のアダムウォーロックがわりとコメディリリーフ的で未熟だったのは拍子抜けしつつも納得の範疇。今後に期待できるなら期待したい。

全体を通してロケットの過去のシーンが緩急の緩となっており、現時点での物語は最後まで止まらずに駆け抜けていく。過去の挿入の仕方がやや強引でありつつも、話が停滞せずに進んでいく感覚がありながらしっかりと緩急がある作りになっているのは映画全体のテンポのよさに繋がっている。(ただ、とっ散らかりの要因にもなっている。)

今回はハイエボリューショナリーの設定から今まで以上にキャラのデザインの際立ちが顕著でスターウォーズ的な王道のものから一線を画すようなB級感のあるちょっとキモく感じるようなモブが多い。トイ・ストーリーのシドの改造を彷彿とさせるような悍ましいものもある。そういった意味でもかなりキツめの印象はあるかもしれない。

コメディは安定のバカさ加減で、無駄に言い争って「ロケット救うのが先だろ!」って毎度言われて終わるのが面白い。どんなに窮地に陥っても笑うことを忘れない。それでいてお互いが支え合ってキッチリ目的をこなしていく様は良い。ガン監督の描くチームプレーは本当に良い。

ピースメーカーで素晴らしい演技をしていたチャックイウジのハイエボリューショナリーは良かった。他、ザ・スースクに出ていたラットキャッチャー2役のダニエルメルシオールやハーコート役で監督のパートナーでもあるジェニファーホランドも出ているので要注目。

Masato