「裏テーマに南北問題を据えた重厚なドラマがアクションシーンを凌駕する堂々たるMCU大作」ブラックパンサー ワカンダ・フォーエバー よねさんの映画レビュー(感想・評価)
裏テーマに南北問題を据えた重厚なドラマがアクションシーンを凌駕する堂々たるMCU大作
国王ティ・チャラの逝去に揺れるワカンダ王国。ティ・チャラの母ラモンダが王位に就き、難病に侵された兄を救えなかったシュリは悲しみに暮れる。それから一年後、ワカンダでのみ産出されるヴィブラニウムを巡って国連加盟国間で緊張が高まる中、大学生が開発した探知装置で大西洋の深海にヴィブラニウムが発見される。グレアム博士らは海上プラントから調査を開始するがそこに現れたのは正体不明の兵士達、彼らの歌声にプラントにいる人々は惑わされて次から次へと海に身を投げていく。
チャドウィック・ボーズマンの死去により大きな路線変更を強いられたシリーズ第2作。予告トレーラーでも披露されていた美しく壮大な葬儀が冒頭の見せ場。兄を救えなかった悔しさから立ち上がれないシュリと母ラモンダの前に突如現れた、海底帝国タロカンを統治するネイモア。ヴィブラニウムを所有し他国を圧倒する軍事力を持つ両国が睨み合う中、ワカンダを守るために強国に対しても一歩も引かないラモンダ、ネイモアに招待されてタロカンを訪れその美しさに圧倒され苦悩するシュリ、葬儀にも参列せず行方不明だったティ・チャラの元恋人ナキア、ヴィブラニウム探知装置だけでなくパワードスーツも開発する女子大生リリ、様々な登場人物が織りなす分厚いドラマがアクションシーンを遥かに凌駕しています。本作の根底にあるのは南北問題。タロカンとワカンダに象徴される古代文明に由来する科学や文化が欧米諸国に搾取され消費され続ける現状に対する激しい怒りが漲っています。冒頭から勧善懲悪の単純な展開になろうはずもないことは容易に想像がつきますが、クライマックスに滲んだずっしりと重い余韻はMCUシリーズの中においてかなり異色のものです。
大変惜しいのはタロカンの人々のいでたちが何となく『アバター』っぽいところ。『〜ウェイ・オブ・ウォーター』の予告を毎日浴びるように観ているので既視感が先行してしまって少々鑑賞の妨げになりました。