「前作『ジェントルメン』から一転、悪党たちが繰り広げる丁々発止のドラマに漲る濃厚なノワール臭に咽せるクライムサスペンス」キャッシュトラック よねさんの映画レビュー(感想・評価)
前作『ジェントルメン』から一転、悪党たちが繰り広げる丁々発止のドラマに漲る濃厚なノワール臭に咽せるクライムサスペンス
LAの現金輸送会社フォーティコ社に採用面接にやって来た、ヨーロッパで警備会社に11年勤めた経歴を持つイギリス人のヒル。体力、射撃、運転等適性検査の合格ラインをギリギリクリアして無事採用され、ボスのブレットから“H”というあだ名を付けられる。ある日Hが同僚のデイヴと現金輸送車の中で待機しているところを覆面の強盗に襲撃される。パニック状態に陥るデイヴに対して冷静沈着なHは強盗の隙を突いて反撃、6人の強盗を全員射殺してしまう。たちまち社内で英雄扱いされるHだったが強盗事件の捜査を担当するFBIは尋常でないHの行動に疑念を抱くが・・・。
『ジェントルメン』に続くガイ・リッチー作品ということで勝手に期待していた英国流のシャレは殆どなし。その代わりに漲っているのは害虫退治でもしているかのように無慈悲に人間が死んでいく凄惨で冷たいヴァイオレンス。時制が前後しながら進行する章立ての物語が進むにつれてHの素性が徐々に明らかになっていく様に漂う濃厚なノワール臭に咽せてしまいますが、LAが舞台なのに何なんだ?と思ったら、本作は2003年のフランス映画『ブルー・レクイエム』のリメイクでした。ということで派手なアクションもあるにはありますがそこは全然メインではなく、謎の男Hが何かに駆られて淡々と情報収集する様子と、それと並行する元軍人達による大胆かつ緻密な強盗計画。この二つが絶妙に交錯するクライマックスのテンションが最大限に高まったところで糸が切れたようにストンと落ちる終幕、その後に漂う余韻は格別でした。
とにかくジェイソン・ステイサム他俳優陣の顔つきが素晴らしい。スコット・イーストウッド、ジェフリー・ドノヴァン、ジョシュ・ハートネット、エディ・マーサン他悪党ヅラばかりでどこにも忖度が感じられないリアルなキャスティングが見事。もちろんストーリーテリングも見事で、現金輸送車襲撃からパトカー到着までの息詰まる数分間を活写したかと思えば、登場人物の葛藤をしっかりと見つめる人間ドラマにも抜かりなし。Hのスマホの着信音がワグナーの“ワルキューレの騎行“であることが見事にドラマに絡み取られていく様も痛快。ガイ・リッチーの手数の多さに舌を巻きました。見事です。