「自分の心拍数で生きるということ」こちらあみ子 scbさんの映画レビュー(感想・評価)
自分の心拍数で生きるということ
自分の幼少期を思い出しました。
誰にも届かない声の切なさを、周りとは違った時間軸をかけてゆっくりと自分だけのスピードで認識してくあみこ。周りと自分が違う認識は未だあみこには生まれてないが、思春期の自己認識に辿り着くのが遅いせいでひしひしと周りの人間が崩壊し、社会的に生きる人達の脆い人間性が見る側の倫理観や道徳心を問われる。そのコントラストによって、自分の世界を貫けるあみこのようなブレない人間がどんな現実よりも強いんだなと感じさせられた。
あみこの小さな成長は、きっと小さな傷から少しずつ生まれていき、それを癒す術も彼女の世界でこれからもゆっくり流れてくんだろうという余韻。
もちろん希望だけでなく、現実との境や歪みは、あみこ以外の世界で起きていき、彼女のなかではそれらが悲惨なほど浮き彫りになることはなく、ほんの少しの寂しさや虚無のような空白が生まれることで、新しい世界を見るようになってく。こういった主観的な成長を見事に表現した作品だし、周りの愛情や葛藤も繊細に表現されてる良い作品でした。
個人的に好きだったのは、あみこがトランシーバーで独り言のようにお兄ちゃんに助けを求めると、久方ぶりに現れ、あみこがずっと苦しんでいた異音の原因を壊すシーン。鳥の巣を投げ捨て、部屋から出て、白昼にバイク音を響かせる。お兄ちゃんは心のどこかでは常にあみこのことが気がかりであった背景や、自身もどうにもならず非行に走ったのだと、兄としての妹に対する責任感などが現されたシーンだったので、絶望的な家庭崩壊のなかで、確かに存在していたあみこへの寄り添いや愛情に希望を感じました。
ラストの波打際で手招いてるお化けたちについては、私自身も現実で似た体験をしたことがある。ただ私はあみこのようにはできず、まだそっちには行けないんだよと泣いていただけだったが、あみこが大きく手を振る姿に、彼女の世界に張られたまっすぐな命の根と、漠然とした生物的強さに感銘を受け、彼女のように自分の世界を主観で生き抜く強さを、自分の心拍数を大切にしようと思わせてくれました。