「時代背景は暗いが、ほどよい笑いと鮮やかな展開が楽しく、コロナ禍の時代に勇気をもらえる」明日に向かって笑え! 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)
時代背景は暗いが、ほどよい笑いと鮮やかな展開が楽しく、コロナ禍の時代に勇気をもらえる
アルゼンチン映画は(合作も含め)日本で劇場公開される機会が少ないが、「人生スイッチ」(2015)や「家(うち)へ帰ろう」(2018)など、何年かに1本はユニークで長く記憶に残る傑作、好作に出会える。この「明日に向かって笑え!」もそんなリストに加えたい1本だ。
宣伝コピーでは“アルゼンチン版オーシャンズ11”なんて言葉も踊るが、盗みや詐欺についてはまったくの素人集団であり、なけなしの手持ち資金を奪われた高齢の庶民たちがお金を奪還しようと奮闘する点でモーガン・フリーマンやマイケル・ケインらが共演した「ジーサンズ はじめての強盗」を想起させるし、大金を狙うメンバーのポンコツぶりはソダーバーグ監督の「オーシャンズ」シリーズよりは「ローガン・ラッキー」に近い。
元サッカー選手で今はガソリンスタンドを営むフェルミンは、さびれた町を立て直すために農協を作って皆で運営しようと思い立ち、仲間から集めた設立資金を銀行に預けるが、金融危機の混乱に乗じた銀行支店長と悪徳弁護士によって資金全額を奪い取られてしまう。弁護士が所有する農場の敷地内に地下金庫を作ったという情報を得たフェルミンらが、資金奪還のために動き出す…という筋は、国境を越えて広く観客の共感を得られるものだが、2001年8月に政府が債務不履行(デフォルト)を宣言するという暗い時代を物語の背景にしたことで、登場人物らの心情に説得力が増した。苦しい状況だからこそ手を取り合って難関に立ち向かっていこうというメッセージは、今のコロナ禍の時代に一層強く響く。
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