「フェルミンと八人の仲間。大味だけど、誰が観ても楽しめるケイパーコメディ。」明日に向かって笑え! たなかなかなかさんの映画レビュー(感想・評価)
フェルミンと八人の仲間。大味だけど、誰が観ても楽しめるケイパーコメディ。
金融危機時代のアルゼンチンを舞台に、悪徳弁護士に預金を騙し取られた者たちが、彼の隠し財産を奪おうと画策するというケイパー・コメディ。
ぴあ様のオンライン試写会に当選したので、一足早く鑑賞!
ぴあ様、ありがとうございます😊
本作の原題は『La Odisea de los Giles』=『騙されやすい人々の長い冒険』(「Odisea」=「Odyssey」、映画好きにはお馴染みの単語。「Gil」は「バカ」や「騙されやすい人」という意味。esは複数形の証。スペイン語では子音で終わる名詞にはesを付ける。)。
本作は『オーシャンズ11』『インセプション』のようなチーム犯罪もの、いわゆるケイパー・ムービーであるが、原題からも判るようにチームのメンバーはかなりのお馬鹿揃い。
①元サッカー選手の映画好きなオッさん。
②その息子。大学生だったが、親が預金を騙し取られた為休学中。
③事業に失敗した爺さん。現在はタイヤ修理工を営む。
④自動車修理工の爺さん。ゴースト駅の駅長。ペロン主義者。
⑤⑥おバカ兄弟。事業に挑戦しては失敗を繰り返している。二つ折りの携帯電話が欲しい。
⑦子沢山の爆弾親父。オンボロな家に住む。
⑧町の有力者。会社を経営する、ちょっと過保護なおばさん。
⑨その息子。サッカー選手の息子とは友人。定職につかずブラブラしている。
このどうしようもないボンクラ達の復讐劇。
悪徳弁護士の隠し財産をごっそり頂いちゃおうという、エンタメど真ん中なコメディムービー。
邦題が『明日に向かって撃て!』のパロディになっているのは、本作が色々な映画のパロディで成り立っていることを受けてのことだろう。
映画好きな主人公フェルミンは、金庫強奪作戦をオードリー・ヘップバーンの出演でお馴染みの『おしゃれ泥棒』からインスパイアを受けて思い付く。
物語の冒頭でフェルミンが観ているのは、チームが絶望的な作戦を決行する為に奮闘する『プライベート・ライアン』。
それに、チームを集めて強盗計画を立てるという基本構造から、変電所を爆破し停電を起こすという作戦まで、これはもうそのまんま『オーシャンと十一人の仲間』のパロディである。
『インセプション』や『オーシャンズ』シリーズなどの基本的なケイパー・ムービーでは、その道のプロフェッショナルがより集まって計画を実行するのだが、本作のチームメンバーは寄せ集めのオッさんたち。
したがって、緻密な計画で対象を嵌めるとか、そういう知的な展開を求めると肩透かしを喰らうことは間違いない。
植木屋として潜入するのに全く植物の知識は無いし、金持ちを装うための変装はただベレー帽を被ってサングラスをかけるだけだし、ここぞというときに携帯は繋がらないし…。
とにかくダメダメな計画なんだけど、実はターゲットの弁護士もかなりのおバカ。
そんなに警報装置が誤作動をおこすのなら、別の警報装置に取り替えるとかしろよっ💦
知的なやり取りはないし、計画も意外性があったりするものではない。
しかもかなり大雑把な作戦なので、簡単に足がつくんじゃないの?とか思うんだけど、そこはコメディ映画ということで大目にみることにします😅
強奪作戦自体に面白みがあるわけではないのだが、ボンクラだけど愛すべきチームメンバーは魅力的なので、観ていて飽きることはない。
アルゼンチン映画ということもあり、日本国内では無名な俳優ばかり出演しているが、みんなリアリティがあるというか、いい意味で役者ぽくない感じがしてかなり良い感じ。
残念だったのはヒロインの使い方かな。
ターゲットの秘書という美味しいポジションのキャラクターなので、もう少し物語に関与してもよかったと思う。
作戦はもう一捻りあっても良かった。
メンバーの一人一人のキャラクター像は面白いので、彼らの個性がもっと活きるような、それぞれの見せ場は欲しかった。
悪徳弁護士のキャラクターが弱いのも気になる。
復讐対象の1人が事故で死んじゃうというのもモヤモヤするところ。
これなら悪徳弁護士が口封じのために始末した、とかにした方が展開的には自然だし、キャラクターの造詣も深くなったんじゃないかなぁ。
あとはクライマックス。メンバーの1人が金を持ち逃げするという微妙に後味が悪い展開、これいる?
歴史に残る名作!…とは言えないが、誰が観てもある程度は楽しむことが出来るポップコーン・ムービー。
一度は挫折した男のワンスアゲイン物語が好きな人なら必ず楽しめるはず!
※
物語は2001年のアルゼンチンから始まる。
自分はアルゼンチンの歴史とか全く知らないし、経済の知識なんてほとんど0だからピンと来なかったんだけど、この映画の舞台である2001〜2002年というのは、アルゼンチンにとってはとても大変な年だったようだ。
アルゼンチンは1991年、1ドル=1ペソというドルペッグ制を導入した。
このように自国通貨を基軸通貨であるドルと連動することで、ハイパーインフレ状態にあった経済状況を安定化させた。
しばらくはこれで良かったようだが、隣国ブラジルがペッグ制を廃止。そうするとアルゼンチン製品は割高ということになり、輸出競争力が低下。
段々と不景気になり、2001年、遂にデフォルト(債務不履行)を決行。海外から借りたお金を返せませーん、ってなっちゃって、完全に経済が破綻しちゃう。
フェルミンは米ドルを銀行に預金したは良いものの、そのお金の現物そのものが銀行には無いため引き落とすことが出来なかった訳だ。
このデフォルトを事前に知っていた悪徳弁護士は、ペソを預金から引き出し、それをドルに両替えした。
ペソがこの先紙切れ同然の価値になるであろうことを予期していたから。
弁護士がドルを手に入れるため、フェルミンのドルを金庫から銀行口座に移動させなくてはいけなかったということなんやね。
うーん。はっきり言って、経済のことは全く分からん🤔
※ペロンとは?
メンバーの1人であるロロが崇拝しているのがフアン・ペロンという大統領。
1946年に大統領となり独裁政治を行った。
1955年に失脚するも、1973年には大統領に返り咲いた。
ペロンの支持者を「ペロニスタ」と呼び、現在でも強い影響力を有している。
民族主義的な政策から、労働者層から圧倒的な支持を集めた。
ペロンはイギリス資本で運営されていた鉄道を国有化した。その象徴として、ロロは幽霊駅を今でも大事に守っているのだろう。
ちなみにペロンの死後に大統領を継いだ、彼の後妻イサベルは世界初の女性大統領である。