「まあ、こんなもんやな」キャメラを止めるな! 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
まあ、こんなもんやな
上田慎一郎監督は一発屋だったかもしれない。
が、『カメラを止めるな!』で見せた才は確かなものだ。
それは幾らオスカー監督とは言え、敵うものではなかった。
『アーティスト』でオスカーを受賞したミシェル・アザナヴィシウス監督がフランスでリメイク。これは実際の製作過程の話。
日本で大ヒットしたゾンビ映画のリメイク企画が上がり、フランスの“早い安い質はそこそこ”の二流監督に持ち掛けられる。これは映画の中の話。
ただただリメイクするのではなく、日本での件があって。日本版と地続きの“続編”みたいな設定。
なので、オリジナルへのオマージュがいっぱい。と言うか、ほぼほぼオリジナルに忠実。マダム・マツダに注文されたかな…? そのマダム・マツダ役で、オリジナルにも出演した竹原芳子も出演。
もう話や設定は充分知られているけど、3段構成。序盤はちぐはぐだらけのB級ゾンビ・ホラー。中盤は実は…の内幕劇。終盤は序盤をもう一度、別角度で。たっぷりの笑いと映画愛と爽やかな感動…改めて思っても、本当によく練られ、計算し尽くされている。
驚き?笑い所?ツッコミ所?だったのは、劇中劇で役名がオリジナル通りの日本名。作中では訳あっての日本名だけど、(現実製作過程で)そこまで忠実にリメイクする!?
海外リメイクならではの新要素もあるにはあった。人種差別へのかなり際どいブラック・ユーモア。これ、所々よく通ったなぁ…と思う。
新要素で一番ウケたのは、ファティの音楽だけど。
ゲロや下痢などの執拗なお下品ネタはちとうんざり。
元々の話や設定が面白いので、がっかりリメイクではなかった。
初見でも何度見てもリメイクでも、話や設定は面白い。本当にこれぞ、『カメ止め』の強み。
そう、“『カメ止め』の強み”なのだ。言い返せばそれは、日本オリジナルが良かったから。
このフランス版リメイクそのものが良かったかと問われると…
結局オリジナルを忠実にやった話や設定が面白かった事に気付く。
オリジナルはあの滑稽さやチープさにも旨味があった。構成力や笑いも含め、それはもう上田監督の才とセンスの賜物だろう。
フランス版はどうも味気ないドタバタ感が否めない。アザナヴィシウス監督もコメディは手掛けているようだが、それは日本人とフランス人の感性の違いかもしれないが、何か弾けない。日本版を再現したコントのように思う事がしばしば。そう思うと、濵津隆之の迷演は絶品の名演だった。
別にこちらが不発って訳じゃないが、間やテンポなど上田監督の方が一枚上手。それは数字にも表れ、90分強の尺が120分弱へ。つまり、如何に間延びしたか。
ラストのマダム・マツダの台詞じゃないけど、まあこんなもんやな。
何故リメイクした?…なんて辛辣な意見も目立つが、ほんの数館でしか公開していなかった超低予算映画が、オスカー監督の手によって海外リメイクされるにまで至って、これは素直に誇らしく、喜ばしい。
映画の面白さって、万国共通なのをしみじみ感じる。
キャメラを止めて欲しいくらいの劣化リメイクではなかったが、改めてオリジナルの面白さを知らされる再認識リメイクであった。
日本オリジナルがまた見たくなってくる。